NFTとブロックチェーンが実現する ファンコミュニティとその未来

2022年11月 2日 16:23 Vol.81
   
石川 裕也
(株)Gaudiy創業者兼代表取締役
Yuya Ishikawa
1994年、東京都生まれ。19歳でAI関連企業を創業し、後に売却。2017年、ブロックチェーンと出合い、翌年にGaudiyを創業。個人では、ガンダムメタバースやLINE Pay、毎日新聞などでブロックチェーン関連の技術顧問も兼任。20年には慶應義塾大学の坂井豊貴教授らとブロックチェーンに関する論文も発表。22年5月と8月に実施したシリーズBで総額34億円を調達。

デジタルIPの複製・保存技術の向上にともない、クリエイティブ作品の流通範囲や期間、利用方法も多様化する一方、クリエイターやその“ファン(ユーザー)”への還元システムは大きくは変わっていない。そうした中、GaudiyはNFTやブロックチェーンを活用した斬新な仕組みを開発し、注目を集めている。ここではその代表者にインタビュー。トークンエコノミーで築かれるファンコミュニティ、あるいはソーシャルな自己とそこからつながる次世代コミュニケーションなど、未来を見据えた刺激的なビジョンを披露いただいた。
text: Kyoko Takei                                                       

 
 
 
 

ファンの熱量が最大化するファンコミュニティを構築したい

―石川さんは2018年にGaudiyを創業されました。ブロックチェーンを活用したファンコミュニティの運営という事業を展開されるに至った、その経緯はどのようなものだったのでしょうか。またGaudiyの前にも会社を起こされていますが、それが現在にどうつながっているのかも聞かせてください。

石川 前の会社はAI 系のサービスを作る受託がメインで、特に現在につながってはいません。僕は元々コミュニティに関心があり、どこかのタイミングで自分の人生を懸けられるプロジェクト、会社をやりたいと思っていました。
ブロックチェーンに出合ったのが5年前。単にサービスを作って儲けることにモチベーションは感じません。自分の中で実現したい世界観があって、それがブロックチェーンならできそうだなと、4年前この領域に入りました。

―石川さんが感じたコミュニティの魅力とはどのようなものですか。

石川 若い頃にまず魅了されたのは、皆で技術を作り合ってシェアしていくテクノロジーのコミュニティ。会ったことのない人もペンネームしか知らない人もいますし、国籍や年齢問わず、参画することに対してパーミッションレスでした。今のブロックチェーンもそうですが、OSS(オープンソースソフトウェア)的な考え方で、起案されている技術課題に対して、誰かが改善するプログラムを書いて、ほかの誰かが確認して、問題なければ取り入れていく。そうやって自律的に技術がどんどん進化していく場でした。

オープンかつフリーな競争から、面白いほどのスピード感や公平性で成果物が生み出されるのです。そこには共有する目的意識がありました。健全に回るコミュニティには、自分がコミットしてそのコミュニティをよくしたい気持ちと、そこで認められたい気持ち、この2つが共存している気がします。

同じような体験を幾つも経て、デジタルに限らず、誰しもが自分の理想的なコミュニティに参画することが、人生をより豊かにするために重要であると気付かされました。そんな時、ブロックチェーンを知り、ブロックチェーンによって生活基盤まで支えてくれる、居心地の良いコミュニティや世界が実現するのではないか、と考えたのです。

元々、ビットコインなど仮想通貨は面白いなと思っていました。2017年にブロックチェーン技術を使ってソフトウェアを動かすダップス(Dapps/Decentralized Applications:分散型アプリ。現在ブロックチェーンアプリとかWeb3アプリと呼ばれているもの)に出合い、そこで暗号資産を使って投げ銭ができるALiSと報酬型ブログSteemitというサービスを見たとき、それらのコミュニティに魅了されました。

どういう仕組みかというと、ユーザーの人たちが仮想通貨のトークンを持ち、このトークンに紐付くダップスのサービスが改良され普及していけば、持っているトークンの価値も1トークンが1円だったのが、10円、1,000円になったりするわけです。

ユーザー、つまりそのサービスの“ファン”は「アップデートしたら使いにくくなった」などと常に議論して改善したり、勝手に宣伝したり、サードパーティを作ったり、イベントを主催したりする。言語も人種も違う、通常だと絶対に絡まないだろう人たちが協力しながら、そのサービスをすごく楽しそうに作っている。「こんなコミュニティってすごい!」ととてもワクワクしました。「みんなでスタートアップのストックオプション持って上場まで頑張ろう」といったモチベーションに近いかもしれないですね。

そして自分でも、新しいサービスや価値観を、世の中に早く普及させたり、浸透させたりすることを後押しする、そういったコミュニティが生まれる場を作りたくて、Gaudiyを創業しました。現在はファンの熱量を最大化するWeb3時代のファンプラットフォーム「Gaudiy Fanlink」を提供しています。

   
「Gaudiy Fanlink」はNFT、DID(分散型ID)などのブロックチェーン技術を活用して、ファンの貢献や熱量が正しく評価・還元されるプラットフォーム
 
 
 
 

イノベーションと還元が進む理想形はWeb2.5!

―石川さんは自身のブログで、集権と分権のバランスがとれたWeb2.5を推奨されています。なぜ今、敢えてWeb3の手前のWeb2.5なのか、その考えをお聞かせください。

石川 Web2.5というのは、Web2.0からWeb3へと移行する“プロセス”の話ではなく、Web2.0とWeb3の強さと弱さを補った“ 最適な位置”のことです[図表]
Web3はブロックチェーン技術を活用した分散型のWebであり、その本質は圧倒的な熱量を持った“カルト的な価値共創”と“ 滑らかな価値分配”にあると考えています。Web3時代の新しい組織形態であるダオ(DAO / Decentralized Autonomous Organization:自律分散組織)では、夢やミッションを持つ人と、それを「価値がある」「面白い」と思って応援に集まってくる人々が価値を共創し、個々の価値貢献に対してフェアにインセンティブが還元されることで、その恩恵を共に分かち合えます。しかし半面、「多数決制を採用すると凡庸なアイデアになる」といわれるように、ダオ的な意思決定は、イノベーションを阻みやすいという課題がある。

一方、ブロックチェーンを使用しないWeb2.0は中央集権的です。リーダーシップを取った人が頑張れてイノベーションが生まれやすいのですが、価値分配がなされない。必然的に還元が一部に集中する社会になってしまう。Web2.0までの時代は、ファンの貢献に正当に報いることができていませんでした。

そこで僕が考える最適な位置が2.5。還元性が高く、なおかつイノベーションが起きやすいWeb2.5を採用することです。作品づくりは作者に任せて、最も熱量のある人がリーダーシップを取って意思決定をする。そしてそこに共感する人々が貢献し、ファンたちにもきちんと還元されるというスタイルです。設計やガバナンスの上でも、3倍頑張ったら3倍還元される、そんな滑らかな価値分配のロジックを考えることが肝になると考えます。

   

 
 
 
 

2人からスタートし、4年で60名、累計資金調達額37億円の企業へ

—Gaudiy FanlinkはWeb3時代のファンプラットフォームの一つとして多くの企業に注目され、今年5月には25億円の資金調達を実施されました。さらに8月に追加調達を行い、累計調達額は37億円になります。わずか4年で事業規模が大きく成長して、今後の展開にも期待が集まっています。現在のGaudiyの会社組織としての規模は、どの程度ですか。

石川 最初は2人で立ち上げ、その後、インターンシップなどが加わり、ずっと10名ぐらい。全員エンジニアでしたが、今は正社員で約40名、副業スタッフを含めると50~60名です。

   
2022年5月にシリーズBラウンド・1stクローズでの25億円の資金調達を記念して開設さ
れた採用特設サイト。https://special.gaudiy.com

—現状では、どのようなファンコミュニティを運営されていますか。事業展開の事例を教えてください。

石川 エンタメを中心にしたファンコミュニティを、OEMで提供しています。マンガ、アイドル、ゲーム、アニメなどで、近々スポーツも加わる予定です。
コミュニティの中でユーザーさん同士がコミュニケーションできるほか、チケット販売やイベントの入退場管理、NFTの無料配布や販売ができるなどの多岐にわたる機能があり、企業のイベントのWebプロモーションをユーザーさんに手伝ってもらうこともあります。

―最近、御社はさまざまな企業と積極的に事業提携をされています。また石川さん自身は大手企業でアドバイザーや技術顧問をされているようです。それぞれ具体的な事例を幾つか教えていただけますか。

石川 まず事業提携先の会社さんとしては集英社、バンダイナムコエンターテインメント、ソニー・ミュージックエンタテインメント、東宝、フジテレビジョンなど、やはりエンタメ系です。例えばバンダイナムコさんは、世界中のIP(知的財産)のファンがつながるメタバースを開発する取り組みの第1弾として「機動戦士ガンダム」のメタバースを開設することを発表されました。僕はこの技術顧問に就いて、弊社Gaudiyも開発に関わります。

—ガンダムファンが熱狂しそうですね。開発に参加するきっかけは、どのようなものだったのですか?

石川 バンダイナムコエンタテインメントさんは弊社に出資いただいており、同時にガンダムメタバースの思想が、Gaudiyの掲げるビジョン「ファン国家」「ファンの経済圏」に近く、共感いただいていることがあります。

弊社はファン国家を作るための「エコノミクス」のメカニズムについて、市場設計に詳しい坂井豊貴・慶應義塾大学経済学部教授と、またコミュニティを維持するルールを、ゲーム理論を専門とする石川竜一郎・早稲田大学国際教養学部教授とそれぞれ共同で研究開発しています。そうした知見の蓄積や学術的視点を入れながら、僕たちが実現させたいファン国家の法やルールみたいなものを構築していっているのです。

—例えば普段、坂井先生とはどのような話をされているのでしょうか。また今後、先生との共同プロジェクトの可能性などはありますか。

石川 坂井先生とは既に、これまでのNFTオークションが抱えていた問題点を解消する新しいオークション理論「Gaudiy-Sakai 方式」をNFTを使って構築し、論文も発表しました。これは人気マンガアプリ「GANMA!」で実施しました。またGaudiyはブロックチェーンの経済設計を研究開発しており、その新しい理論や経済ロジックを構築しています。
そして石川先生とは、ゲーム理論の活用です。コミュニティ内で炎上させないための、ゲーミフィケーションの設計をしています。

 
 
 
 

「IPメタバーススタジオ」を築き、世界へ

—今後の事業について伺います。新しい展開としては、どのようなことを考えていらっしゃいますか。

石川 現在のファンプラットフォーム、Gaudiy Fanlinkの拡充や事業開発はもちろん、大きな方向性としてはグローバル展開を目指します。また、機能的なものではGaudiy自身でもメタバースを構築していきます。そのために「IPメタバーススタジオ」も設立しました。
現在でも海外からのユーザーさんはたまにいますが、本格的に来春から夏にかけて、東南アジアを中心に海外展開していくつもりです。僕自身、拠点を移すことも考えています。

—まずは東南アジアに定めた理由は何ですか。 

石川 例えばフィリピンでは、おじいちゃん、おばあちゃんがブロックチェーンゲームを使っていて、Web3のマスへの浸透が最も速い。アメリカよりもスピードが速く、広く普及しているため、マーケットとしてのポテンシャルを感じての展開です。

—一方、自社で作るメタバースとはどういうものですか?

石川 僕たちはOEMでコミュニティを提供しています。提供しているコミュニティ内に、そのIPコンテンツの世界観を再現したメタバースを簡単に構築できるようにします。リッチなメタバースというよりカジュアルなメタバース空間で、ユーザー同士がより密なコミュニケーションを楽しめる場になります。
そんな企業の一つが8月末に協業を発表したサンリオさんで、今後サンリオさんのファンコミュニティを盛り上げていく予定です。そのほか提携するIPも順次公開していきます。

 
 
 
 

日本発、世界で勝てるプロダクトを作る

—今後のビジョンについてもお聞かせください。

石川 会社としては、しっかりグローバルに展開していくことですね。Web3はGAFAからの転職も多く、世界的に優秀な人材の移動が加速しています。しかし日本は、まだ全然そういった状況ではありません。インターネット時代にGAFAに全部取られ、「日本の失われた30年に加え、あと30年Web3でも置いていかれてしまうのか。ヤバいな」とすごく危機感があります。だからこの新しい時代に対して、今、僕たちが影響力を持つことをしっかりやってみようと思っています。

プロダクトを作る上で、Web3はカラオケや同人誌、コスプレなどの二次創作文化とも相性がいい。日本のエンタメという文化的な強みが生かせるわけです。日本が誇るエンターテインメント産業とWeb3を掛け合わせ、世界で引っ張っていける会社であったり人であったりにしたいですね。
未来の社会に関しては、ほっといても人類は進化するとは思います。ただ、僕らがいることによって、それがより良い方向に向かって、速度も1.2倍、1.3倍ぐらいに上がればいいかなと思っています。

—新しい経済社会の扉が開かれようとしていると感じる一方、周囲には懐疑的な意見もまだ多い。認知度と実際に携わっている人との数のギャップが大きい気がします。ブロックチェーンやNFTの持つ、リスクを上回る革命的な魅力、必然性について改めて教えてください。

石川 アメリカのVC 大手のサイトに、インターネットとブロックチェーンの成長曲線は似ているという面白いレポートがあって(Introducing the 2022 State of Crypto Report)、現在の仮想通貨イーサリアムのウォレット保有者数は、インターネットの1995年頃のユーザー数とほぼ同じ状況だそうです。僕が生まれたぐらいのタイミングの1998年に、ある経済学者が「インターネットがファックス以上の経済規模になることはない」と言い切っていました。新しいものへの認知はそんなものだと思います。

わからない人たちがいるから僕らが仕事をできている面もあり、気になりません。GoogleとかYouTubeとかはAIの権化みたいなサービスですが、AIだと気付かなくても皆が使っています。今こうしてネットを介して喋っている言葉も、裏でAIがノイズ処理して補正していますが、誰もAIだと意識しません。ブロックチェーンだって理解しなくていいんです。それが広まっていく上で大事なのはコンテンツ。「楽しい、ワクワクさせられる」といったものの裏で、ブロックチェーンが使われている。最終的にはそういった世界観を目指さなければならない。しかしまだ力及ばず、テクノロジーを先行させて期待値を煽っているのが今の状況ですね。

—例えば石川さん自身を夢中にさせるコンテンツとは、どのようなものですか?

石川 僕は、多くの人の行動を変えられるようなプロトコルだったり、テクノロジーに興味があって、そうした新しい概念や場、事象を見ると興奮しますね。インターネットやSNSも、人間の価値観や行動を変えたと思いますし、メタバースやブロックチェーンの中では、人間の行動が変容するさまが如実に見える。だから「すげー、これは新しい時代かも」「どうなるんだろう」といったワクワク感がある。

うちの会社は、水曜日を“通常業務をしない日”とする「エンパワーデイ(Empower-Day)」とするほか、給料が自己申告制です。「子どもが生まれたから給料を上げてほしい」と言われたら、上げたりします。プロジェクトに責任感を持って臨んでいる人、成果を出している人、周囲をサポートしている人などに申告してもらい、会社が個々人の人生をサポートする。そういった滑らかな価値分配と同じ考え方です。

エンパワーデイも規則というより、自由な“ 余白”を設けるためのルール。そうしたルールを入れることで、メンバー(社員)の考え方が結構変わります。給料のために目立とうとか、会社の中でギスギスしなくなれば、自分本来のやりたいクリエイティブなことができるはず。会社も社会も、自分自身は社会実験の場だと思っていて、人の価値観や行動が変わるソリューションや制度、アプローチについて個人的によく勉強しています。

 
 
 
 

メタバースとは、リアルに勝るデジタルなアイデンティティの問題

石川 メタバースとは、ヘッドマウントディスプレイをして体験するデジタル空間のように捉える人も多い。しかしメタバースというものを広義に抽象化すると、VRではなくて、アイデンティティの話なのです。2045年に人間の知能よりコンピュータの知能のほうが勝るというシンギュラリティという考えがありますが、リアルなアイデンティティよりデジタルなアイデンティティのほうが勝る世界がメタバースです。

昨今、中高生にインタビューすると、学歴よりも、インスタグラムとTikTokのフォロワー数が欲しいと答えます。YouTubeのチャンネル登録者数が多いほうが、学歴が高いよりも圧倒的に生きやすい社会、時代になっているわけです。また現在、世界中のサッカーをやっている小学生とバスケをやっている小学生を足しても、Fortniteをやっている小学生の数には勝てません。さらにはFortniteのゲームが上手ければ、男の子はモテるらしいのです。

Twitterのフォロワー数が多い経営者はなぜか優秀に見え、資金調達の額が多い起業家がすごくイケていると感じるように、実際にデジタルアイデンティティがリアルなアイデアよりも勝り始めている。メタバースでは、それがより加速します。

最近、面白かったのは、ソニー・ミュージックさんとのプロジェクト(フジテレビ主催のアイドル・フェスティバル「TOKYO IDOL FESTIVAL(TIF)」でNFTを活用したコミュニティサービス「TIFコミュニティ」を共同開発)です。VTuberのオーディションをしたら、普通のアイドルのオーディションよりも人が集まりました。サッカーやカレーにめちゃくちゃ詳しい女の子がいたりと、顔を出さないことで超ユニークな人材に出会えたわけです。デジタル上でなりたい自分のアイデンティティを構築すると、それがリアルよりも勝り始める。僕もメディアで顔出しはしませんが、そういう世界がメタバースなのです。

僕らが手がけるカジュアルなメタバースというのは、そこに注目しています。自分が持っているカジュアルなメタバースでの人間関係のほうが、実社会でのそれよりも「居心地が良いな」「無駄な競争が生まれてないな」「マウント取り合わずに本音で喋れるな」と思える。そんな空間を構築します。そしてブロックチェーンと仮想通貨によって、デジタル空間がただの娯楽ではなく、生活基盤になっていく。これは例えば、ゲームのコインが仮想通貨につながれば、そのゲームをマスターしている人は、ゲームプレーすることでお金を得られるということ。YouTubeにYouTuberという職業ができたのと同じようになっていく。そのきっかけづくりを僕らのメタバースができればと思っています。

本来メタバースはそういうもの。デジタルアイデンティティのほうが生きやすくなる機能だったり世界観を作れると、もっと社会は変わっていくんじゃないでしょうか。

—デジタル上の活動に経済的価値を付け、お金が回る仕組みを作ろうとされているわけですね。“ 私”の定義が変わるような、革新的なことだと感じました。

石川 最近、僕もアバターをよく使います。メタバース空間ではフェースを変えることが自然に行われ、会社と家庭で外見を変えたり、自由に使い分けるようになるでしょう。ブロックチェーンやAIも革命的ですが、メタバースが人のアイデンティティを根本から変え、インターネット以上にすごいことになるのは自明です。“リアル”という世界観がないだけで生きやすく、本質的になれれば、こちらのほうがメインのアイデンティティといえます。顔を変えて喋ると楽しいですよ。

バンダイナムコの宮河社長は本当に素晴らしいプロデューサーですが、「メタバースとは何か」を話していたときに「レディ・プレイヤー1じゃないか」とおっしゃいました。映画『レディ・プレイヤー1』ではバーチャル空間で出会った人たちがリアルの社会で会う描写があるのですが、喋っていた人は実はめっちゃ子どもだったり、性別が違ったりする。でも既に中身で交流を持って本当の友達になっているから何も揺るがない。そういうつながりが、メタバース空間では実際に生まれると思います。

—するとコミュニケーションのあり方も変わっていく予感がしますね。

石川 興味深い心理学の話があって、「戦争では戦場から遠い場所にいる人のほうが敵をより憎む」というのです。とすると政治家や大金持ちが憎まれるのも自分との距離が遠いからで、話してみたら意外といい人だと思うかもしれない。もしメタバースの空間で、実際には戦争中の人同士で話をしてみると、多くの場合は「手を取り合おうよ」ってなるはずです。

最近、アメリカの『The Network State』という260ページぐらいある論文に、インターネット社会の中で国家を構築する方法が書かれていて、お互いを分断させないためには世界をつなげていくことが大切だと示されていました。重要なのは知ること。メタバース空間では、遠くのことも自分ごと化できると思いますよ。