メタバースにおける現実の再現と その権利問題

2022年11月24日 16:00 Vol.81
   
岡本 健太郎
骨董通り法律事務所パートナー
Kentaro Okamoto
弁護士、米国ニューヨーク州弁護士、証券アナリスト。岐阜県出身。ロイター・ジャパン(当時)等を経て、現職。主に、アート・エンターテインメント分野の法律業務に従事。神戸大学大学院客員准教授、Japan Contents Blockchain Initiative 著作権流通部会部会長などを務めるほか、東京藝術大学非常勤講師などを歴任。慶應義塾大学経済学部卒業、一橋大学法科大学院およびペンシルバニア大学法学修士課程/Wharton Business and Law Certificate修了。

 メタバースは、インターネット上に創設された3次元の仮想空間である。仮想空間に、街や施設が作られ、オフィスワーク、ショッピングなどの経済活動が行われる。メタバースの主な構成要素に空間、アイテム、アバターなどがあり、程度の差はあるものの、実在する建築物、商品、人物などをモチーフにすることがある。これらの題材には、著作権、商標権、意匠権などの権利が生じ得るため、メタバース上での利用に際して、関連する権利、法律上の位置づけ等を紐解き、整理しておくと有益である。

本稿では、実在する建築物、商品、人物などをメタバース上で再現する際の権利関係について、著作権、商標権、意匠権などを中心に、そのポイントに言及する。

なお、メタバースにおける著作物の主な利用行為として、複製(≒コピー)、公衆送信(≒ネット配信)、翻案(≒アレンジ)などがある(著作権法21条、23条1項、27条)。他人の著作物について上記の行為を行うには、「権利制限規定」(同法30条から50条)という例外規定の適用があるか、あるいは、著作権の保護期間が満了済みでなければ、著作権者の承諾が必要となる。メタバースにおける他人の著作物の利用も同様である。

また、現実世界とメタバースとでは、利用行為の法的位置付けが異なり得る。例えば、現実世界では、絵画などの「美術の著作物」の原作品の所有者は、作品の展示に際して著作権者の承諾は不要である一方(同法45条1項)、メタバース上での作品の「展示」は公衆送信に該当し、原則として、著作権者の承諾が必要となる。また、「美術の著作物」の原作品の所有者は、譲渡又は貸与の申出の用に供するため、当該著作物の複製や公衆送信は可能である(同法47条の2)。

ただ、仮に当該作品のNFT(Non-Fungible Token)を保有していたとしても、NFTは有体物(民法85条)ではなく、所有権の対象でないため、原作品の所有者とは言い難い。メタバースの利用に際しては、著作物等の利用に関する権利関係が、現実世界と異なり得ることを意識しておくとよいだろう。

 
 
 
 

建築物

メタバースでは、現実世界の建築物が再現されることがある。再現の対象は、渋谷区公認の配信プラットフォーム「バーチャル渋谷」のように、街全体の場合のほか、ランドマーク、イベント会場など、特定の建築物のみの場合もある。

(1)著作権
建築物は、著作物の一類型であるが(著作権法10条1項5号)、絵画や写真よりも実用的な要素が強いこともあり、ある程度の芸術性のあるものに限り著作物となる。よくある雑居ビルやオフィスビルは、著作物には該当し難い一方、例えば、東京都庁、国会議事堂などは著作物となると考えられている(1)。

もっとも、仮に建築物が著作物とされても、「現実世界における建築物としての複製」といった限定的な場合でなければ著作権は及ばない(同法46条2号)。換言すれば、現実世界の建築物をメタバースに再現しても、基本的には著作権侵害にはならない。

ただ幾つかの留意点があり、まず、「美術の著作物」ともいえる建築物は(2)、ポストカード、カレンダーなどのように、「専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製する場合」には、著作権が及ぶ(同条4号)。このため、「美術の著作物」といえる建築物も、メタバース上で背景として表示する限りでは、著作権侵害にはなり難い一方、メタバース上の土地、アイテムなど、販売目的で利用する場合には、著作権者の承諾が必要となり得る(3)。

また、この例外規定では、建築物をそのまま再現することが想定されている。メタバース上で、建築物の破壊、装飾など、著作物の改変が伴う場合には、同一性保持権(著作物の同一性を保持する権利。同法20条1項)に関する著作者の同意が必要となり得る。

さらには、この例外規定は、建築物自体が対象であり、建築物に掲示された著作物(例:著作物性のある看板や広告)には及ばない。ただ、著作権者の承諾がなくても、概要、①事物の影像を複製又は伝達するにあたり、②主たる被写体に付随して写り込んだ著作物は、③軽微な構成部分に留まれば、④正当な範囲内において、⑤方法を問わず利用できる(同法30条の2第1項)。他の要件を満たせば、著作物の偶然の「写り込み」に限らず、意図的な「写し込み」も可能である。

メタバース上での著作物の再現に際して、特に議論があるのが複製伝達行為(上記①)であろう。複製伝達行為には、風景のCG 化も含まれるが、複製に留まる必要があり、翻案に至る行為は含まれない(4)。いずれも既存の著作物に依拠する行為であるが、既存の著作物に付加された創作性が乏しければ「複製」(著作物の有形的な再製。同法2条1項15号)となる一方、ある程度の創作性が付加されれば「翻案」(二次的著作物の創作)となる。再現型のメタバースは、3次元の現実空間を3次元の仮想空間に表すことに特徴がある。メタバース上における現実世界の再現性の程度、アバターの有無や内容など、メタバースが現実世界の再現を超えて、別の作品(翻案)といえるか否かが本条の適用の分かれ目といえよう(5)

   

(2)商標
 建築物などの立体物は、①形状そのものに識別力(自己の商品・役務と他人の商品・役務とを区別する力)があるか、②使用を通じて識別力を獲得した場合は、商標登録が可能である(商標法3条1項3号・6号、2項、4条1項18号)。商標登録された建築物には、東京タワー(第5302381号)、東京スカイツリー(第5476769号)などのランドマークのほか、Family Mart(第4195115号)、Mobil( 第5373041号)、コメダ珈琲店( 第5851632号)、蔦屋書店(第5916693号)などの店舗もある。ただ、商標登録された店舗(立体商標)の多くは、識別力を獲得するため、企業のロゴマークなどを含むものが多い[図表1]

商標は、本来的に自他商品識別機能(自己の商品・役務と他人の商品・役務とを区別する機能)や出所表示機能(商品・役務の提供者などを示す機能)を果たす態様での使用(商標的使用)に対して及び、これらの機能を発揮しない態様での使用は、商標権侵害にはならない(同法26条1項6号)。このため、商標登録された建築物をメタバースの背景(デザイン)として表示しただけでは、商標的使用ではなく、商標権侵害にはなり難い。

一方、メタバース上で、商標登録された建築物を店舗とし、そこでアイテムを販売するなど、出所を表示し、また、ほかの商品・役務と区別するために登録商標を使用しているような場合には、商標的使用となり得るように思われる。
なお、登録商標の第三者による無断使用が商標権侵害となるには、上記のような①商標的使用であることのほか、後述のように、②指定商品・役務の同一性又は類似性も必要となる。

   

(3)意匠
2020年4月から、建築物や内装も意匠登録の対象に加わった。例えば、ユニクロ PARK 横浜ベイサイド店(第1671773号)、JR東日本上野駅公園口駅舎(第1671774号)などの建築物、くら寿司(第1671153号)、NTTドコモ(第1689935号)などの内装が意匠登録されている[図表2]
意匠権の効力は、登録意匠と同一又は類似の意匠に及び(意匠法23条)、意匠の「使用」(同法2条2項1号)とは、意匠に係る物品をその用途や機能に従った使い方で用いることをいう(6)。現実世界の建築物や内装は、起臥寝食の場である一方、仮想空間上の建築物や内装は、アバターの“ 生活空間”に留まる。このように、建築物や内装は、現実世界と仮想空間とでは用途が異なることから、メタバースにおいて、現実世界の建築物や内装(意匠登録されたもの)を表示したとしても、意匠権侵害になり難いように思われる。

なお、仮想空間についても、コンテンツ選択操作用画像(第1691956号)、発表状況表示用画像(第1692265号)など、意匠登録されたものがある[図表3]。ただ、操作画像や表示画像としての登録意匠であり、建築物や内装としての登録意匠とは異なる。

   

 
 
 
 

アイテム

メタバースでは、アバターの衣服や靴のほか、グッズ、家具、乗り物などのアイテムが提供されている。メタバース上の店舗、アイテムなどに企業や商品のロゴマークが表示されることもある。

(1)著作権
現実世界では、服、グッズ、家具などの実用品は「応用美術」などと呼ばれ、著作物性が否定されやすい。実用品が著作物として保護される場合の考え方には幾つかあるが、その一つに、実用目的の達成に必要な機能に係る構成と分離して、美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えている部分を把握できることを要求するものがある(7)。

こうした要件を満たさない実用品は著作物性を欠くため、メタバース上のアイテムとして再現しても、著作権侵害にはならない。一方、元々メタバースでの利用を意図して作成されたアイテムもあり、こうしたアイテムのデザインは、創作性があれば著作物として保護され得る。建築物も同様であるが、現実世界と仮想世界のいずれを意図して創作されたかによって、著作物としての保護や、無断利用された場合の著作権侵害の有無が異なり得る。

(2)商標
現実世界では、他人の登録商標を、その登録商標と同一又は類似の商品やサービスに無断で使用した場合には、商標権侵害となり得る。しかし、他人の登録商標を、デジタル空間上のアイテムに使用したとしても、必ずしも商標権侵害にはならない。

商標権は、登録した商品・役務(指定商品・役務)と同一又は類似の範囲に及ぶ(商標法25条)。例えば、「被服」(25類)を指定商品とした登録商標の効力は、コート、セーター、シャツなどには及び得る一方、通常は、デジタル画像(9類)には及ばない。現実世界の「被服」とデジタル空間の「被服のデジタル画像」は異なるなど、現実世界を想定した指定商品・役務では、デジタル空間での使用に商標権の効力が及ばないことがある(8)(9)。

ただ、仮に、指定商品・役務が異なる場合であっても、周知又は著名な商標(商品等表示)については、不正競争防止法によって保護され得る(混同惹起行為:不正競争防止法2条1項1号、著名表示冒用行為:同2号)(10)。本稿では深く立ち入らないが、メタバース上でのデザインの使用に際しては、不正競争防止法にも配慮が必要である(11)。

(3)意匠
メタバース上のアイテムは、現実世界では、意匠登録されている可能性がある。ただ、上記のとおり、意匠権の効力は、意匠に係る物品をその用途や機能に従った使い方で用いることに及ぶため、物品について登録した意匠権は、デジタル空間上での意匠(デザイン)の利用に及ばない。

2020年4月から、画像意匠の登録範囲が拡大したが、操作画像(機器の操作の用に供される画像)又は表示画像(機器がその機能を発揮した結果として表示される画像)に限定されている(同法2条1項)。上記に該当しない、単なるアイテムの画像は、意匠登録の対象外である。また、そもそも、意匠登録の対象は、新規のデザインである(同法3条1項各号)。例外的に、公表等から1年間は遡及出願できるものの(同法4条1項)、意匠権は、メタバースにおける既存の商品デザインの保護には適さないように思われる。

 
 
 
 

アバター

メタバース上では、ユーザーの分身としてアバターが利用される。自分に似せたアバターもあれば、別の性別、動物など、自分とは異なるアバターもある。メタバース上では、アバターが歌唱、ダンス等の表現行為を行うこともある。

(1)著作権/肖像権/パブリシティ権
現実世界の人物には、自身の肖像を保護する権利として肖像権があり、タレントなどの著名人には、パブリシティ権(商品の販売等を促進する顧客吸引力を排他的に利用する権利)もある。このため、アバターに、他人の肖像を利用した場合には、肖像権やパブリシティ権の侵害となり得る。また、アニメのキャラクター画像など、アバターに他人のキャラクター画像を利用した場合には、著作権侵害となり得る。

また、創作性のあるアバターは、著作物となる可能性があり、その著作権は、創作者に帰属する。アバターの制作を制作会社に外注した場合には、アバターの著作権は、当事者間に別段の合意がなければ、制作会社に帰属し得る。制作会社が、誹謗中傷その他の迷惑行為の禁止など、アバターの利用条件に制約を課すこともある。

メタバース上では、運営者が完成したアバターを提供することもあるが、運営者は顔のパーツ、髪型、服装等の構成要素を提供し、利用者がこれらを組み合わせてアバターを作成することもある。これらの構成要素が著作物に該当し、アバターが構成要素の二次的著作物となる場合には、運営会社は、アバターについても著作権を主張し得る(著作権法28条)。このように、利用者以外にアバターの権利が及ぶことにより、技術面だけでなく権利面からも、マルチバースにおけるアバターの利用が制限される可能性もある。

(2)アバターによる実演
アバターによる歌唱、ダンスなど、著作物等の伝達行為は、著作隣接権として保護され得る。著作権法上、「実演」は、著作物を、演劇、舞踏、演奏、歌唱、口演、朗詠その他の方法で演ずることとされ、著作物を演じないが芸能的な性質を有する行為(例:奇術、曲芸、腹話術、ものまね)を含む(同法2条1項3号)。

アニメやゲームにおける声優の実演は、実演家の権利(著作隣接権)の対象となり得る。これと同様に、例えば、メタバースにおける、アバターを介した歌唱やシナリオの朗読など、音声による伝達行為も「実演」に該当し、伝達者に対して、実演家の権利(著作隣接権)が認められることもある。

一方、ダンスなどの身体的な伝達行為については、現状、多くのメタバースでは、プログラムとして組み込まれた動きなど、ある程度限定されており、「演じる」といえるほどの個性はないように思われる。また、「実演」とは、本来的には、人間が身体を駆使して著作物を表現する行為が主たる対象である一方、楽器や着ぐるみなど、人間の身体以外(道具)を介した表現行為も「実演」に含まれる。このため、アバターを介した実演行為についても、ある程度の個性があれば、「実演」と認めてよいようにも思われる(12)。

なお、著作物を公に伝達する際には、原則として著作権者の承諾が必要であるが、例外的に、①非営利であり、②観客から料金を徴収せず、③出演者にも出演料等を支払わない場合には、著作権者の承諾は不要である(非営利上演:同法38条1項)。もっとも、この例外規定は、上演、演奏、上映又は口述が対象であり、公衆送信は対象外である。このため、現実世界では非営利上演とされるイベントであっても、メタバース上で開催する際には、著作権者の承諾が必要となり得る。そのほか、「授業」(同法35条1項、3項)における著作物の利用については、メタバース上であっても著作権者の承諾は不要となり得るが、その対象は、通常の授業のほか、初等中等教育の文化祭などの特別活動に限られる(13)。

 
 
 
 

終わりに

メタバースでは、運営者が利用規約を定めることが多く、利用者の権利関係は、準拠法をはじめ、利用規約によって異なる。
本稿は、日本法を前提としたが、外国法が準拠法となる場合には、本稿と異なる解釈もあり得る。特に、商標権、意匠権など、登録国毎に発生する権利については、日本国外では保護が及ばない。

メタバースには、コンテンツにまつわる諸権利のほかにも、個人情報保護法、消費者保護法、金融法、刑事法、国際私法など、さまざまな法分野が関連する。メタバースの発展や普及のため、コンテンツその他の法的事項が整理されることを願っている。

 
 
 
 

〈注釈〉

(1) 建築物の全体だけでなく、階段、応接室などの建築物の一部も、建築の著作物となり得る(中山信弘『著作権法〔第3版〕』(有斐閣、2020年)105頁)。また、庭園について、「建築の著作物」の該当性ではなく一般的な著作物性を認めた上、「建築物の模様替え」に関する規定(著作権法20条2項2号)の類推適用を認めた事例もある(大阪地決平成25年9月6日判時2222号93頁)。同法46条は、比較的広範に著作物の自由利用を認める規定であるため、「建築の著作物」に該当しない著作物について、同条の(類推)適用が躊躇
される可能性もある。

(2) 厳密には、「美術の著作物で、原作品が屋外の場所に恒常的に設置されているもの」をいい、異論もあるが、岡本太郎氏の「太陽の塔」などが挙げられる。

(3) 「 美術の著作物で、原作品が屋外の場所に恒常的に設置されているもの」(著作権法46条柱書)は、「設置されている」という現存性に関する文言があるため、同条4号の適用は、屋外に現存する著作物に限られるように思われる。一方、建築物(同条柱書及び2号)については、現存性に関する文言がなく、過去の建築物にも適用され得るように思われる。

(4) 文化庁「著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の一部を改正する法律(令和2年著作権法改正)について(解説)」25頁・76頁では、複製行為の例として「風景等をCG 化する行為」を挙げた上、「模写等においてその対象を完全にそのまま
の形では再現できない場合……など、複製と評価される範囲であれば全く同一でなくても差支えない」とした一方、「ここで想定している行為は、……写真撮影・録音・録画・放送と同様に、風景などを、そのまま又はこれに準ずるような形で複製・伝達する行為である」とし、「風景などを映した動画の中に他人が作成したキャラクターを登場させて作品を作る場合など、他人の著作物を素材として利用しつつ新たな作品を作り上げる行為のように、写り込みとは全く異なる場面における行為までは含まれるものではない」としている。

(5) 著作物となる看板、広告などをメタバースに再現する際には、権利処理済みの別のものに差し替えるほうが無難とはいえよう。なお、シンプルなロゴは、著作物になり難いことから(東京高判平成8年1月25日判時1568号119頁など)、メタバースに再現したとしても、著作権侵害とはなり難い。

(6) 茶園茂樹『意匠法〔第2版〕』(有斐閣、2020年)22頁など。

(7) 知財高判令和3年12月8日(令和3年(ネ)第10044号)など。

(8) アパレルメーカーなどを中心に、メタバース上の利用を踏まえた商標出願も行われている(NIKE の例:商願2021-132597、商願
2021-132593及び商願2021-132596)。

(9) 小塚荘一郎= 石井夏生利= 上野達弘=中崎尚= 茂木信二「仮想空間ビジネス」ジュリスト1568号68頁( 2022年)は、電子出版物、プ
ログラム等のデジタルコンテンツをネット上で提供する行為は、商標的使用にあたる一方、仮想空間上のアイテムはダウンロードできず、仮想空間へのログイン中のみ利用可能なものもあるなど、仮想空間で取引されるデジタルアイテムに登録商標を付す行為の商標的使用の該当性は、難しい問題とする。

(10) 商品の形態は、通常は「商品等表示」には含まれず、概要、①他の商品と識別し得る独自の特徴を有し、かつ、②強力な広告宣伝、長期間に渡る独占的使用などにより、自他商品識別機能や出所表示機能を有するに至り、需要者に広く認識されたような例外的な場合に、「商品等表示」に含まれる(経済産業省「逐条解説 不正競争防止法」67頁[令和元年版])。

(11) 形態模倣も不正競争の一類型であるが(不正競争防止法2条1項3号)、「模倣」とは、他人の商品の形態に依拠して、実質的に同一の
形態の商品を作り出すこととされ(同条5項)、「商品の形態」とは、商品の外部及び内部の形状などをいう(同条4項)。メタバース上での表示には具体的な「形態」がないことから、現実の商品をメタバース上で模倣しても「形態模倣」にはなり難いように思われる。

(12) モーションキャプチャーを利用した実演につき、①実演家自身の行為を「実演」と捉える場合には、モーションキャプチャーの映像を「その実演」(著作権法90条の2第1項、90条の3第1項、91条1項)と捉え、実演家の権利を及ばせることは無理があるとしつつ、②モーションキャプチャーの映像(アバターの行為)を「実演」と捉え、実演家の権利を及ばせる考え方もある(桑野雄一郎「メタバースと著作権(下)」特許ニュース15675号[ 2022年])。特に、キーボード入力など、身体を駆使せずにアバターにダンスをさせる場合には、上記②の考え方になじみやすいように思える。

(13) 著作物の教育利用に関する関係者フォーラム「改正著作権法第35条運用指針(令和3年度版)」、追補版「【初等中等教育】著作物を利用した特別活動における音楽・映像等のインターネット等での配信について」(令和3年11月9日)。