アバターが映すコミュニティの未来図

2023年4月11日 10:25 Vol.83
   
高谷 慎太郎、土屋 淳広
ココネ(株)代表取締役社長 CEO、ココネ(株)取締役
Shintaro Takaya、Atsuhiro Tsuchiya
(高谷)大学卒業後、株式会社セガに入社。2001年セガグループの株式会社ヒットメーカー取締役就任。02年ダーツバーBeeをプロデュースし、03年には株式会社ダーツライブを設立、代表取締役社長を12年務める。その後はエンタメ企業を中心に社外取締役・顧問を務め、21年にココネ入社。 (土屋)デザイン専門学校を卒業後、そのままフリーランスとして活動。代表作に、『リヴリーアイランド』『踊り子クリノッペ』『住み着き妖精セトルリン』『シアトリズム ファイナルファンタジー』シリーズなど。2017年にココネ入社、21年にCCOに就任。

デジタル世界のコミュニケーションにおいては、技術の発達によりその範囲が一気に拡大。「コミュニケーション革命」ともいわれる活況を呈している。テクノロジーの進化に伴い、デジタルコミュニティでの人とのつながりは、どのように変化していくのか。数々のアプリを開発し、世界中に顧客の拡大を図る会社のトップに、思い描くヴィジョンについて語っていただく。
text: Makoto Tanoue photograph: Kenta Yoshizawa

 
 
 
 

アバターが主役の「CCP」サービスとは

―御社は2008年の創業以来、膨大なデジタルアイテムを販売してこられました。

高谷 ココネはこれまでに多数の“アバターアプリ”を開発・運営してきました。当社独自の「CCP」のサービスにおいて、制作したデジタルアイテムは100万種を超え、販売数は累計160億個に上ります。CCPとは、「キャラクター(Character)」が存在し、「コーディネート(Coordinate)」要素を持ち、「遊ぶ(Play)」ことができるものと独自に定義したサービスです。当社ではさまざまな「飾って楽しむソーシャルサービス」を提供し、お客様が自分自身の“ 感性”を自由に表現できるデジタルワールドを展開しています。

主力アプリの『ポケコロ』は2011年に運営を始め、のべ2,300万人以上のお客様に楽しんでいただいており、世界トップレベルのアイテム売上数を誇るキャラクター着せ替えアプリです。7万点を超えるアイテムを組み合わせてファッションをコーディネートしたり、部屋や星を飾り付けて“カワイイ” 世界で自分を表現できます。

もう一つの主力アプリ『リヴリーアイランド』は、錬金術から生まれた不思議なペット「リヴリー」と箱庭ほどの小さな島で暮らすCCPサービスです。お客様の分身となる「ホム」を介してリヴリーのお世話をしたり、ホムの着せ替えを楽しんだり、島を自由に飾り付けたりしながら、お気に入りのリヴリーと自由気ままな生活を送れます。

昨年は、これら2つのアプリを含む当社基幹事業のCCPサービスに加え、新たな挑戦として『PKCL Twins』『ClawKiss』『JANKEN』といったWeb3領域のグローバルサービスをローンチしました。

―それだけ多くの人に支持されている理由はどこにあるとお考えですか。

高谷 一つはデジタルアイテムの企画制作体制だと考えています。当社にはインハウスデザイナーが約400人在籍し、膨大なアイテムのほぼすべてが内製。デザイナー職の社員数は、この業界では非常識といえるほどの多さです。デザイナーが一生懸命つくり上げたアイテムを活かし、さまざまな感情が喚起されるようなサービスを提供してきました。それがお客様に喜んでいただけている要因ではないかと思います。

土屋 私も高谷も中途入社なので、最初はデザイナーの人数にとても驚きました。社内デザイナーを多く抱えていると、単純に人件費がかかります。そのためほかではアートディレクターを数人置いてあとは外注する、プロジェクトがうまくいかなければ終了といったことが往々にしてあります。

当社では社員一人ひとりがサービスを自分事と真摯に捉える文化が醸成され、それによって一生懸命お客様と向き合ってサービスをつくることができています。私は元々フリーランスだったのでわかりますが、外部の人間だとどうしても対クライアントで考えてモノをつくりがち。当社はその先のお客様とシンプルに向き合えています。それが大きな強みになっていると思います。

もう一つ、当社には独自の文化があります。この業界は一般的に、社内ピラミッドのようなものがあって、デザイナーは底辺のほうに位置付けられていることも多い。仮にデザイナーがこういうものをつくりたいと提案しても、ほとんど議論されずに、エンジニアなどが却下することが少なくありません。当社はピラミッドはなく、デザイナーを軸にフラットな関係性の中で働く文化が出来上がっています。ですから、さまざまな職種がありますが、社員同士の仲が良く、デザイナーとエンジニアには信頼関係がある。商品デザイナーが何か提案したときに、どうやったら実現できるかをみんなが考えます。

結果的にできないこともありますが、実現するために努力をする。だから見た目の美しさだけではなく、世界観を持ったアイテムが続々と生まれてくるのです。

我々は「ゲームやメタバース、Web3をつくること」を目的にしていません。当社の会長をはじめ、社内でずっと話しているのは「本質とは何か」や「人間とは何か」など、ある種哲学や心理学的なこと、シンプルに「感性」という話をしています。本質を見極めて、我々が社会に提供できるサービスは何かを考えた結果として、これまでのいろいろなサービスが生まれました。

何かをつくろうとしてそうなったのではなく、本質や時代、技術力を加味して出来上がったもの。その結果が当社のサービスになっているということです。

また我々は、機能的なツールをつくっているわけでもないので、お客様をユーザーとは呼びません。ユーザーはツールを使う人です。『ポケコロ』や『リヴリーアイランド』などでは多種多様なファッションアイテムを提供しており、お客様にはそれをアバターに着せて楽しんでいただきます。一般的なファッションブランドでも、ユーザーではなくお客様と呼んでいるはず。したがって我々も、お客様と呼びます。それも当社の特徴の一つだと思っています。

 
 
 
 

顧客との共創が生むオリジナリティ

―御社が生み出すCCPからも、そういう意識が伝わってきます。

高谷 はい、当社ではお客様へのアンケートを頻繁に取ります。困ったらすぐに取る。私はこの業界に長くいますが、その頻度は驚くほどです。サービスの事業部長を務めていたときに、ある悩み事があったのですが、当社の会長から「そんなに悩むんだったら直接聞いてみたら」とアドバイスされました。それで『ポケコロ』のお客様にアンケートを取ったところ、想像を超える数の返答がありました。世の中の一般的なアンケートよりも、数段踏み込んだ質問内容だったにもかかわらず、です。

またお客様へのアンケートのほかに、手紙のやり取りやライブ配信なども行っています。そういったコミュニケーションの行き来がある。お客様は大切な存在であると同時に、我々の仲間。共にサービスをずっと育ててきた背景があります。

以前、『ポケコロ』で毎月かなりの金額を使ってくださっているお客様2人にインタビューをしたことがありました。なぜそんなに使ってくださるのかと。一人は「自分は昔たくさんの高級ブランドを買っていたけれど、今それらを身に着けても似合わない。でもアプリの中の自分はいつでもイメージのままに着飾ることができて、いつもかわいいと感じる」とおっしゃっていました。だからアイテムを買うほうが楽しいと。

もう一人の方は「ブランド品を数多く買ってしまい、置き場所に困っていた。アプリの中ならばアイテムがたくさんあっても困らないし、不要になれば友達にプレゼントできる」とおっしゃっていました。

お客様をもてなすには、こちらが何をしたいのかではなく、お客様が何を気にしているか、何を求められているかを徹底的に考える。そういった風土が当社にはあります。

土屋 我々はお客様の声をとても大事にしています。一方で、要望をすべて取り入れているわけではなく、こちらから新たな価値、お客様が気づいていない価値も提供しているつもりです。キャッチボールのような、双方向でつくり上げている感じです。

―お客様アンケートというと、一般的にレスポンスが悪かったり、本音は聞けなかったりするイメージがあります。それほど正直に答えてもらえるものですか。

高谷 お客様はすごく前向きです。
土屋 そうですね、我々のサービスで遊んでくださる方々は、聞けば答えていただけます。アンケートの返答率も高めです。コロナ禍前にはオフィスに招待するといらっしゃってくださいましたし、今はリモートでインタビューをさせていただいています。

お客様は当社アプリについて、よく“ 居場所”という表現をされます。アプリの世界が自分の住んでいる居場所の一つになっているということです。そのため、例えば実際に住んでいる自分のマンションで何か問題があれば管理人に話したりするのと同じ感覚で、アプリの運営チームとコミュニケーションされているのではないでしょうか。とても協力的な方が多く、我々と一緒にこの場所をつくっていると感じます。

高谷 その人の居場所で、その人が主人公であるということが我々の大事なキーワードだと思っています。自分が“ 常に” 主人公だと思える場面は、そうそうありません。当然ながら会社でも家庭でも難しいですよね。当社のサービスはどれも、自分のアバターをつくることから始まります。つまり自分が“ 常に主人公であることを視認させられる”ところから始まる、ということ。どこに行っても自分が“ 常に” 主人公でいられる、そして自分がどこにいてもありたい姿でいられるのです。性別も国境も見た目もいろいろなものを超え、本来なりたい自分になって『ポケコロ』や『リヴリーアイランド』の世界で主人公として暮らしています。

ただ、多くのお客様はそうした暮らしぶりなどをSNSで発信されません。入社当初はそれが悩みでした。積極的に発信してくだされば宣伝になる。しかしよくよく考えると、お客様は我々のサービスの中に自身の世界があり、現実世界とは切り離してそこで暮らしているのです。アプリの世界の中にも人間関係があり、実生活における会社や家族、恋人に対しての自分とは違う自分として生活しています。現実世界では着られないような派手なファッション、髪型、メイクをして、華やかなバッグを持っている自分がいる。親しい友達がいる。それを実生活のSNSで発信するのは難しく、発信する必要がないほど“違う自分”として楽しく暮らしています。

実際、私もそうですが、リアルな世界でも家庭、職場、友人、親戚など、人間関係やその場の状況に応じて自分のキャラクターを自然に使い分けています。アプリの世界にある人間関係を外に発信する必要はなく、また、したくもないのだと思います。

―私も『リヴリーアイランド』をプレイしてみたのですが、皆さん驚くほど本音を掲示板に書いていますね。会社でこんなことがあったとか、普通のSNSでは書けないような内容もありました。

土屋 グチをこぼす場というわけではなく、特に『リヴリーアイランド』に関していうと、普段なら絶対に話さないような人とアプリ内で会話を交わすことがあ
ります。犬の散歩をする方は似た体験をしたことがあると思いますが、そこには不思議な連帯感が生まれたりもします。自分と他者だけではなく、間にコミュニケーションのハブとして犬がいる。共通の好きなものがあるというつながりを感じられるからこそ、安心して話せる。『リヴリーアイランド』も、同じものを愛している、大事にしている人が集まる場所なので、気軽にコミュニケーションを楽しめるのではないかと思います。

   
『ポケコロ』は、コロニアン(アバター)の着せ替えアイテムや部屋の模様替えパターンが豊富
   
ファッションやインテリアなど、自分のセンスでアップデートし、アプリ内のフレンドとの交流を楽しめる
   
『リヴリーアイランド』では、不思議な生き物「リヴリー」の飼い主となり、自分の分身である「ホム」を介して島(アイランド)でお世話をする
   
リヴリーの散歩先として、ほかの島を訪れ、出会いを楽しめる。ホムの着せ替えパターンも多様
 
 
 
 

NFTによって生まれるデジタルアイテムの資産性・経済性

―サービス内でのアバター・アイテムのNFT(非代替性トークン)化を進められています。狙いを教えてください。

高谷 NFTを取引するマーケットプレイスは世界に幾つもあります。日本でも認知度の高いOpenSea(オープンシー)が代表的です。シンガポールに拠点を置く当社グループ企業では「Jellyme(ジェリーミー)」という独自のNFTマーケットプレイスを開発・運営しており、当社が提供するNFTはすべてそこで取引していただくことになります。

これから我々がやろうとしていることは、お客様をWeb2.0の世界からWeb3の世界へお連れすること。お客様と共にWeb3の世界に入っていくことができれば、と考えています。ブロックチェーンという技術を基盤としてNFTやトークンが存在しますが、それらはすべて技術でしかありません。重要なのは、その技術を使って人間がどう生きていくか。

こういった革新的な技術が世の中に現れるのは、社会に何かしら欲求のようなものが広まって、それを叶えるために技術が勃興してきたからです。技術があるから世の中が変わるという考え方もありますが、何か大きな世の中の欲求みたいなものが背景にある、と私は個人的には考えています。

読むと見るだけだったWeb1.0から始まり、SNSが台頭したWeb2.0では読むだけではなく発信するようになりました。

Web3はそこに“ 所有”の概念が加わります。その概念は、唯一無二を証明できるブロックチェーンという技術基盤によって実現します。デジタルのコンテンツないしアイテム、文章、リリック、音などの唯一性をオンライン上で証明できるからこそ、所有が可能になるのです。

―NFTを所有すると、お客には何のメリットがあり、どんな楽しみ方ができるのでしょうか。

高谷 コロナ禍で顕著になりましたが、世の中の大きな流れとして、リアル世界で過ごす時間と同じくらい、人々はスマホやPCを介した仮想空間での接触時間が長くなっています。さらにそこに現実世界につながる資産性・経済性、つまり金銭的に価値ある取引・活動が実装されていけば、より多くの人がよりいっそう多くの時間を、その世界に費やしていくのではないかな、と。我々も何らかの資産性・経済性を実装できるサービスを提供していけば、きっとお客様にもっと滞在していただける、喜んでいただけるのではないか。そういった仮説を持って、ブロックチェーン基盤のデジタルワールド・メタバースの実現に注力しています。

ちなみに私自身が考える最も成功しているメタバースに近いサービスは、オンライン会議で使うZoomやGoogle Meetです。コロナ禍で一時期はやったオンライン飲み会が廃れた一方、ZoomやMeetのオンライン会議がなぜいまだに成立しているかといえば、大勢のリアルな日常を支える経済活動だからではないでしょうか。その意味でも、我々のサービスがアプリの中だけで完結するのではなく、アプリの中で日々生まれる活動そのものが、お客様自身の何らかの資産性・経済性につながることが大事だと考えます。

とはいえ、それらの実現はまだ難しいのが実情です。理由の一つはWeb3の技術全般において、UX(ユーザーエクスペリエンス)がまだ未成熟な点です。NFTの取引一つをとっても、まずアプリの中からNFTを取り出してウォレットに入れる、そこからマーケットプレイスに持っていき、販売したら再びウォレットに戻してウォレットからアプリに戻すなど、複数のツールを介するステップが必要なので、慣れないと面倒に感じると思います。

暗号資産などに元々関心がある方はそのステップを理解していますが、現時点ではまだまだ難解な部分が多い。それが、Web3のサービスに興味があっても踏み込んで楽しめない要因になっているのです。ただ、今では誰もがスマホを持っているように、当社を含めてUXが洗練され、より高品質なサービスを生み出す会社が出てくる過程で、秀逸なサービスが生まれ、加速度的に世の中へ浸透していくのではないか、という感覚はあります。土屋 先ほども言ったように、我々はメタバースやNFTサービスをつくること自体が目的であったり、NFT 販売で儲けようとしているわけではありません。ただ現時点で既に、当社のサービスの中に、お客様の資産ともいえるデジタルアイテムが日々蓄積されています。例えばたくさんアイテムがたまったから今は友達にあげているけど、それが仮にフリマアプリのように売れて自分の収入になるのであれば、あげたり捨てるよりは売ろうと考えるのは自然な発想だと思います。

その仕組みを実現するにあたって、ブロックチェーン/NFTの技術が生きるわけです。ただ、デジタルとリアルを分けて捉えて「どんなに大切にしている服や目のパーツやペットも、極端にいえば数多あるデジタルデータの一つである。唯一の本物ではなく、サービスが終われば消えてしまう価値のないもの」、そう考える方々が今はまだ多数派だと思います。しかし技術が進化すれば、唯一のもの、本物であると証明されるだけでなく、データがブロックチェーンに全部残り、そのもの自体のヒストリーを見ることもできるわけです。

NFTはまだ手続きが煩雑で、難しい、わからない、だから怖いという意識があり、利用が思うほど進んでいないのが実情です。しかし今後、デジタル資産が増えていけば、NFTの必要性も増していくだろうと考えます。

   
グローバル展開する新規プロジェクトの指揮にもあたる取締役の土屋氏

―NFTが浸透するにはまだ時間がかかるということですね。

高谷 現状はそうですね。ただ、昨年11月に出した『PKCLTwins』というWeb3グローバルサービスに新たな手応えを感じています。これはCCPの『ポケコロツイン』をベースにNFT 要素を導入したサービスです。アジア圏をメインターゲットにしているのですが、予想以上に多くのお客様がNFTの要素を楽しんでくださっています。ローンチ前はお客様の1%ほどがNFTを利用してくださるかな、と見積もっていましたが、実際は10%以上の方がウォレットにNFTを入れ、マーケットプレイスで取引されている。これはとても意外でした。そこにはおそらく、お金が稼げるという情熱みたいなものもあるように思います。

その確認も踏まえて『PKCL Twins』のローンチ後すぐにお客様へアンケートを取ったところ、数百通が返ってきました。さらにオンラインインタビューを受けてくださる方が、その3分の1ほどいらっしゃいます。今年1月からインタビューを開始しており、結果が集まるともう少しいろいろなことが見えてくるはずです。なぜNFTを利用したのか/していないのか、また何を改良すればいいかなど、自分たちで考えるよりもお客様に聞いたほうが、スピーディかつ的確に対応できます。

『PKCL Twins』によって、経済性と資産性が実装されているサービスはバリューがあることがわかりました。YouTuberやライブ配信が若者に人気があるのも、単に楽しいだけではなく、投げ銭も含め、お金を得られることが大きいと考えています。

 
 
 
 

グローバル市場へ拡張を図るデジタルサービス

―顧客は海外にもかなりいらっしゃるのですか。

高谷 まだまだ少なく、大半は日本のお客様です。ただ、これから1,000倍規模のサービスをつくり上げていこうとしており、日本だけを対象にしていては人口から考えても実現できません。また、当社のお客様のほとんどは女性ですが、男性も取り込めるサービスを提供できれば、より大きく世界へ展開できます。

とはいえ、いたずらにサービスを拡大したいわけではありません。当社は十数年かけて、自分自身が主人公でいられるような世界を構築し、お客様がそこにいることで何かしらの喜び、居場所だと感じていただけるものを提供してきました。日本で日本人の感覚で一生懸命つくり上げてきたものを、これからは世界に広げていきたいと考えています。

そのため、このほどニューヨークに新しくオフィスを構えました。日本で開発し世界に発信しようとしても、どうしても日本の感覚、日本の文化みたいなものがベースになってしまいます。これまで培ったものを大事にしつつ、決して延長線上で考えるのではなく、世界中の皆さまに我々のサービスを届けたい、という強い欲求があります。それがもしかしたらメタバースと呼ばれるかもしれないし、デジタルワールドかもしれません。いずれにせよ、世界中の人に届けられるサービスを提供したいと考えています。

ちなみに、昨年12月にローンチした『JANKEN』というWeb3グローバルサービスは、CCPではなくジャンケンの遊びをベースにしたサービスで、お客様がアフリカや南アジアの国々から現れました。私はこの業界に二十数年いますが、初めてアフリカのお客様に自分が手掛けたサービスが届きました。素直にとても嬉しいです。これまでのCCPサービスとはコンセプトが異なりますが、お客様が世界にいらっしゃることを確信しました。

我々のデジタルワールド、CCP が同じように展開できたら、きっともっと楽しい世界が広がると感じています。
土屋 ニューヨークの拠点は、先ほども述べたようにお客様を直に知る取り組みの一環。ココネがずっと大事にしてきたことです。お客様と同じものを食べ、同じ空気を吸う。そうやって共に暮らすことで、そこに生きる人たちの感性や文化を学びとれます。

これからグローバルで、特に北米から展開していく際、米国の人や文化を知る上でニューヨークが最適な場所だと判断したというわけです。

   
Web3の技術を導入するなど、自社サービスのグローバル化を牽引する、代表取締役社長CEOの高谷氏

―『ポケコロ』や『リヴリーアイランド』をはじめサービスがどんどん増え、しかもグローバル展開していく中で、お客同士の間で分断や摩擦が起きる懸念もあると思います。どのようにお考えですか。

土屋 お客様同士がつながることは良いことだと思います。ただ、私自身は分化や分断が悪いとは決めつけたくはなく、小さいコミュニティに分かれること自体には良い面もある。ほかのコミュニティに対する無関心や攻撃性が問題なのでは、と考えています。小さなコミュニティだからこそ、そこでイキイキと生きられる方もいるのではないでしょうか。それを否定したくはないですね。

先ほど高谷が述べたのと同じ話で、独りのとき、家族といるとき、会社にいるとき、それぞれ違う自分があるのが自然です。Twitterなどでも多くの人が複数のアカウントを持ち、友人関係、コミュニティ、サービスの情報収集といった具合に使い分けています。アバターでも同様です。これからは分化したコミュニティごとに、いろいろな“自分”を持つ人がきっと増えるでしょう。実際、当社のサービスそれぞれで、異なる体験・生活を楽しまれているお客様が多くいらっしゃいます。

人類はそもそも“ 群れ”といいますか、コミュニティやつながりをつくることで現代まで生き延びた種であると理解しています。そして住む場所をアフリカ大陸からどんどん拡張してきました。ですから、世界をリアルとバーチャルに分けることにすごく違和感がある。どちらかというと拡張している、開拓している感覚です。開拓する中でさまざまな人が生まれ、いろいろな生き方がそこに受容されるようになります。そうやって人類は生きるスペースを開拓して、幅広い多様性が生まれてきた気がします。それが現在は宇宙にまで進んでいます。

繰り返しになりますが、バーチャルといま呼ばれているものも、ある種生きるスペースを拡張、開拓しているにすぎないのではと思えるのです。その際の問題点の一つに経済の要素があるわけですが、それはNFT /ブロックチェーン技術で解決しつつある。今までアプリの世界だけで完結するものだったところに経済性が生まれ、自分にお金が入って生活できるようになると、一つの生き方として価値が生まれてきます。それによって生きるスペースが開拓され拡張する。デジタルにおいては自分の身体性に制限がないので、制約からどんどん解放され、さまざまな場所で多彩な働き方や生き方ができるようになる。

例えば、今は肉体と精神の性自認がうまくかみ合わずに違和感があるという方も、アバターでは自己決定した性別として生きていくケースなども出てくるでしょう。あるいは人間でなくても、鳥や木になって生きたいとか、そのあり方は無限です。

人の生きるスペースがどんどん開拓・拡張されていき、それによって多様な生き方が認められやすくなる社会が必ず到来するでしょう。その実現を期待しています。

ココネ株式会社