eスポーツで実現する、 自分らしく生きる社会

2022年7月 7日 14:49 Vol.80
   
加藤 大貴
(株)ePARA代表取締役
Daiki Kato
愛知県出身。埼玉県戸田市在住。2児の父。国家公務員(裁判所職員)として8年間勤務後、福祉業界に転職。その後「本気で遊べば、明日は変わる。」の実現を目指す(株)ePARAを2016年に設立。バリアフリーeスポーツ提唱者。障害者施設等対抗オンラインeスポーツ大会アドバイザリー。障害者就職オンラインフェスティバル企画・運営。NPO市民後見支援協会理事。

eスポーツの可能性は、今やゲーム愛好家の娯楽の範疇を超え、広がってきた。教育や健康促進、コミュニケーション機会の創出など、最近は社会課題の改善方法としても着目され始めている。そのような中、年齢や性別、障害の有無を問わず、あらゆる人々が参加可能な世界の実現を、eスポーツを通して目指す会社がある。そこでは「自分らしく関われる社会づくり」をどう実践しているのか、代表に話を伺った。
text: Fumihiro Tomonaga photograph: Takao Ohta
                                                        

—ユニークなキャリアをお持ちです。ePARA 設立までの経緯を教えてください。

加藤 大学卒業後は国家公務員の裁判所書記官を8年間。その後、品川区社会福祉協議会に転職しました。身近なきっかけもあって「成年後見人」というジャンルについて、もっと社会的な認知が必要だと思うようになり、裁判所に勤務しながらいろいろと模索したのですが、やはり限界を感じ、「それなら」とダイレクトに福祉の世界に入りました。

そうして念願だった成年後見制度に関する広報活動に携わる中、多くの人に興味を持ってもらおうと、落語会やエンディングノートセミナーなど軟らかなテーマでイベントを開催していました。そのうちeスポーツやゲームであれば障害者のお子さんを持つ母親などにも来てもらえるのではと思い、実施したところかなり盛況でした。むしろ当たり過ぎぐらいで(笑)。その後、eスポーツ関連のイベントに企業から呼ばれる機会も続いて、eスポーツの可能性に気づいたのです。

そこで独立して、ePARAとNPO市民後見支援協会の2つの組織を立ち上げました。前者は代表としてバリアフリーの障害者eスポーツの普及に努め、後者で主に高齢者の成年後見人の広報活動を継続。両方を走らせることでシナジー効果を狙っています。

―eスポーツは目的というよりも、手段とお考えですか。

加藤 ゲームは幼い頃から好きですが、eスポーツを熱心にやっていたわけではありません。eスポーツがはやっていて、障害者や高齢者も含め、多くの人が楽しんでいる状況があった。そこでこれをフックに広げれば、自分たちが聞いてもらいたい、伝えたい情報が伝わるのではないか、という思いですね。

 
 
 
 

日本のバリアフリーeスポーツの現状

―eスポーツは子どもや若者が行うのは想像できますが、広く一般的に受け入れられるイメージがあまり湧きません。障害者や高齢者の方々の反応はいかがでしたか。

加藤 海外の例ではお年寄りの間でもeスポーツが結構広まっており、国内でも初めは主に高齢者へのeスポーツを使ったアプローチを考えていました。スウェーデンでSilver Snipersという平均年齢73歳の男女のファーストパーソンシューティングゲーム(FPS)のチームがあって、めちゃめちゃかっこいいんですよ。こういうおじいちゃん、おばあちゃんたちが対戦をする取り組みを日本でもできればと思って。そこで日本でFPSに興味を持っていただけそうな高齢者を探しました。すぐに見つかるだろうと思っていったのですが、実際は皆さん、あまり乗ってきてくれなかった。

150人ほどの高齢者の方に声をかけたのですが、「ゲームは苦手で」とか「インベーダーゲーム以来やったことがない」とか「ゲームはやってもいいけど、打ち合い・殺し合いは嫌」といった反応がほとんどでした。「なるほど」と思い、そこで対象を障害者eスポーツに移したのです。障害者の若い方は結構やってらっしゃいました。

後から聞くと、海外では退役軍人のメンタルヘルスのためにゲームを活用する文化があるらしく、軍属の方が、引退した後もゲームに親しんでいて、孫と一緒に楽しむケースも多いとか。やはりゲームのタイトルが大切で、どういうゲームを選ぶか工夫しなければと勉強になりました。

―ゲームとeスポーツ、両者の間に壁のようなものはないのでしょうか。

加藤 私はないのですが、違うものと捉える人もいます。eスポーツはあくまでもスポーツなんだと。新しくできたルールがあって、競技性があって、賞金大会があって、実況解説があって……といったものがeスポーツ。そういう文化をつくっていこうという人たちもいる。私は単にゲームが好きなだけで、eスポーツに特別なこだわりはなく、バズワードというか、広報上それは活用するけれど、ゲームであれば楽しいほうがいいといった考えです。

さらにいえば、テクノロジーを使って障害者の活躍の場を広げられれば、ゲームでなくてもいいとも思っています。実際に、メタバースで何ができるかとか、NFTブロックチェーンを使って障害者アートをどう売り出すかといったことは、既にいろいろ始めました。

だからeスポーツに限定せず、障害者の方の遊びとして捉えています。あるいはテクノロジーを使って楽しいことをする。それはゲームにとどまらず、幅広く考えています。ただeスポーツにはポテンシャリティがある。ゲームをプレーするだけではなく、それに関する記事を書いてもらったり、動画やWebページを作ってもらったりという形で業務発注することで、障害者の方々の能力が外に見えるような状態をつくれる。そういう点でeスポーツには広がりを感じるので、今はそこを中心的にやっています。

―ちなみに海外で障害者向けのeスポーツの現況はどうですか。

加藤 海外だと支援するNPOや福祉団体があります。例えばアメリカのAbleGamersというNPOは、相談すると、身体障害を抱えコントローラーを持てない人にデバイスをプレゼントしてくれたりします。日本はまだそこまで行っていません。

さらにeスポーツに関する情報が乏しく、Googleで「障害者/ゲーム」と検索すると、最近まではゲーム障害、つまり依存症の話しか出てきませんでした。そのためお母さんたちは障害のあるお子さんがゲームに興味を持っても止めるんですよ。でもゲームはICTの入り口でもあります。eスポーツに参加できているだけで、それはゲームを理解し、インターネットを理解し、コミュニケーションが可能だということ。将来、企業にも雇用されやすい仕組みができる。あるいは、そこから興味を持って全盲の方でもキーボードを作るとか、プログラミングを始めるといったきっかけになる。筋ジストロフィや脳性麻痺の方が、視線入力でゲームができ、同様の仕事があれば、周囲の領域にも飛躍的に広がるのに、情報が届かず、支援団体もないためそこが絶たれているのです。

だから、「こんな機器を使って、こういう活躍をしている人もいます」という実例を、親や本人に伝える。必要なら海外の情報を翻訳して知ってもらう。そういった活動をePARAで現在進めています。また近々、カナダ人も交えて全盲の方だけのeスポーツイベント(オンライン格闘ゲーム)を開催する予定です。私たちの活動もようやく、海外の団体に「連携しましょう」と自信を持って言える段階になってきましたので。これからは国境の壁を破って、交流をしていければと思っています。

―御社がやっていることとパラスポーツはやはり関係がありますか。

加藤 もちろん、ePARAという名前に“PARA”を使っていますからね。パラリンピックの“パラ”は英語の「パラプレジア(Paraplegia:下半身不随)」が語源ですが、現在は “オリンピックと並行する、もう一つの”という点で「パラレル(Parallel)」という2つの意味を併せ持つ語です。

オリンピックと比較したパラリンピック的な部分を我々が担当するという点で、パラeスポーツアスリートを支援する中間的な団体でありたいと思っています。パラスポーツ、そのeスポーツバージョンというところで、関係はあります。

またパラeスポーツには、体を動かしながら行う、例えば「サイバーボッチャ」のようなものや、エアロバイクにスマホを連動させて競走するもの、トレーニングをして健康になりながらゲームで対戦するようなものも含まれる。そういったeスポーツでありパラスポーツであるところが、面白さかなとも感じます。

つまりオリンピックとパラリンピックは別の大会として、別の選手で、別のルールで行われますが、eスポーツの場合、障害者によってルール変更の必要がないものもある。障害の種類に応じて同一に戦えるゲームもあるし、そうじゃないものもあるわけです。そこを混同してしまうと元も子もないので、そういった環境・ルールを整えることも私たちの役目かなと思っています。

―パラスポーツとeスポーツと両方に関わってらっしゃる点を生かし、何か新しい楽しみ方なども発信できそうですね。

加藤 そのとおりです。例えば今、競技かるたをバリアフリー化できないか、麻雀を全盲の人でもオンラインで楽しめる工夫ができないか、と各方面に声をかけています。音声読み上げソフトを使えば可能なのではなど、さまざまに検討中です。ただ、全盲の弊社社員をかるたに誘ったところ、「かるたは和歌を覚える必要があって面倒だけど、麻雀ならやりたい」といった反応でした(笑)。

こうすると彼らがどんなゲームに興味があるのかも、段々とわかってくる。全盲の方も結構麻雀に興味あるんですよ。麻雀で実際に4人集まるのはなかなか難しいですが、オンラインなら容易に実現できる。最近、「雀魂-じゃんたま-」というアプリやそのアプリで遊ぶ様子を配信するYouTube 番組が若い子の間で人気があったり、サイバーエージェントがMリーグという麻雀のリーグ戦を開催し、企業交流も行っていたりするので、競技人口が徐々に増えています。そういう点で麻雀は、障害者でもそうじゃない方でも巻き込める、今後より注目すべきジャンルだと思います。

 
 
 
 

ePARAの多様な取り組み

—では、ePARAの事業経営についてお聞かせください。収益はどのようにして上げてらっしゃるのでしょうか。

加藤 主に3つですかね。まずeスポーツイベントの受託です。これは行政や民間から声をかけていただき、eスポーツの大会を運営するもの。「運営費1回いくらでやってください」といった予算内で行います。

2つ目はWeb 関連の業務。私たちはWebマーケティングを得意とするので、例えば受注のあったWebのアクセシビリティの改修など案件を切り分けて、できるだけ障害者の方にやってもらうようにしています。また記事執筆などコンテンツ制作も行います。健康や食、ゲームといったテーマに関して、ガイドラインを明確にして指示をし、企業から一時請けで頂いた業務を、私たちが有償業務委託の形で障害者の方に再委託しています。そういったWebマーケティングやWeb 制作、SNS 運用といったものです。

あとは有料職業紹介事業者であるので、障害者の方を企業に紹介して紹介報酬を頂く障害者の就労支援業務です。紹介料とともに紹介後に、伴走支援といった形でお金を頂く場合もあります。

—eスポーツの事業、Web 関連事業では、障害者の方はどの程度の割合で関係してらっしゃいますか。

加藤 もう95%ぐらいです。弊社は現在、社員3人のうち2人が重度障害者です。さらに有償の業務委託だと、約50人の障害者が登録されていて仕事は全て彼らに出しています。私たちは依頼準備として業務を切り分けるだけ。実際に手を動かすのは彼らです。

—確認ですが、Web 関連の仕事は、テーマや目線は特に障害とは関係ないものですよね。

加藤 はい、一般的なもので、売り上げの大部分は特に障害者と関係ありません。一方、私たちはバリアフリーeスポーツのオウンド・メディアもやっており、そこでは、例えば注意欠陥・多動性障害(ADHD)のお子さんのゲームの工夫や、身体にハンディのある方のeスポーツへの取り組みといった障害にフォーカスした記事を書いていただくこともある。それは他社から業務発注されたものではなく、私たちが必要だからです。ただ、そのオウンド・メディアに近々、ソーシャルグッド領域の活動に力を入れるある会社から、広告宣伝費として年間幾らかスポンサードしていただけるめども立ちました。私たちの活動を目に留めて「応援します」と言ってくださる企業が出てきて、本当に嬉しいですね。

―今までに手がけたeスポーツの事業、イベントで特に印象に残っているものはありますか。

加藤 2020年5月の、コロナによる最初の緊急事態宣言の終了直後にオンラインイベント「ePARA2020」を開催しました。それまでリアルでしかやってなく、自前でのオンラインは初めて。それなりの手作り感溢れるものになったのですが、打ち上げのZoom 飲み会で話を聞いていると、ある障害者の方が泣いていたのです。「緊急事態宣言中は人とほとんど喋っておらず、フィジカルスポーツの大会は全部中止になり、元々少なかった障害者のジャンルでさらに機会が減り、コミュニケーションが全くなかった。活躍の場とともに目標も奪われ、本当に辛かった。大会を開いてくれて、すごく嬉しかったです」と。

私はそんな大それたことは考えていませんでしたが、この時期、彼らはそこまで孤独だったのかと、胸が痛みました。「ネットだけが、ゲームだけがコミュニケーションの唯一の手段」という状況下にあることをコロナになって認識し、テクノロジー、コミュニケーションツールの大切さを今も強く感じています。

―その後、2020年10・11月の「ePARA CHAMPIONSHIP」では、全盲の方が健常者の方に格闘ゲームで勝ったと伺いました。

加藤 いぐぴーさんという女性のプレーヤーです。彼女が大会で晴眼者(目の見える方)の選手を相手に1勝を挙げたときは泣きそうになりました。こういう技を出したら空振った、ガードされた、今どこに相手がいるのか。そして次はどうするのか、といったことを彼らは全て音で判断します。今日もちょうど別の全盲の方が、階下の部屋で格闘ゲームを練習しているので、ぜひ見学してください。

去年の9月、このビル内にある「Any% CAFE」でエキシビションマッチを全盲の北村直也さんと私でやりました。私も昔は相当、格闘ゲームをやっていて、学校をサボってゲームセンターにこもっていたほどなので「さすがに勝てるかな」と踏んでいました。そして姑息にも投げ技主体で、相手が距離感を測りづらい組み立てを考え、ゲームに臨んだのですが、後半にはすかさず対策がなされ、投げ抜けなどされてボコボコにやられました。もう手も足も出ないぐらいで……。今回は私が勝って、次に負けるようなストーリーを思い描いていたのですが、相手は
めちゃめちゃ強かった。

ゲームなので優位性が誰の目にも明らか。“目は見えないけど自分より強い”という現実を目の前にして、圧倒的な尊敬の念が生まれました。

—近年のテクノロジーの進化と障害者の方について、どのようなことを感じていますか。

加藤 テクノロジーを使いこなす障害者の方々が、我々の能力以上のものを発揮する機会がどんどん増えていると思います。
全盲の弊社社員は、Zoomで議事録を取ってくれるし、データベースをいじって「改修しておきました」が当たり前。テクノロジーを使いこなせる方は、こちらが活躍できる環境を渡してあげれば、存分に能力を発揮できます。

しかし渡す側が偏見を持っていると難しいんですよ、任せられないから。だから例えば「ePARAではこういうふうにやってもらってます」という実例をなるべく企業にお見せするようにしています。そして「43.5人以上従業員がいる会社は障害者雇用は必須です。せっかくなら数合わせの雇用でははなく、本業に貢献できる業務を任せられるほうがいいですよね。御社でも活躍の場があると思いますよ」と、各所に提案しているところです。

その際に「障害のある方でもこんなこともできてすごいんです」といった、控えめな上から目線でなく、「その程度の能力は当然ありますが、さらに、こんなこともできます」とアピールして、相手が「さすが!」と唸るような部分をどんどん見せられるようにする。「普段何やってるんですか」って聞かれて「プログラマーやってます、全盲で」みたいな感じが面白いじゃないですか。そういうケースが増えるといいですね。

   
「esports BizContest」で優勝したときの様子

―昨年オープンしたバリアフリーeスポーツ施設「Any%CAFE」について伺います。これは「esports BizContest」で優勝されたのがきっかけと伺いましたが、オープンの背景などを教えてください。

加藤 そもそもそのコンテストの前、2019年11月に初めてのリアルイベントを新宿で行った際、会場探しに大変苦労しました。バリアフリーというか、車椅子の人が集まれる会場が都内に存在しなかった。「eスポーツカフェ」「eスポーツバー」など「eスポーツ」の名が付く店をくまなく回ってみると、彼らは概して賃料の安い物件に入っているので、半地下やエレベーターがないのが大半。中野や秋葉原の専用施設も半地下だったり、狭
かったりで車椅子の方を迎え入れるのが難しかったのです。もちろん“バリアフリー”から探すと会場はあったのですが、使用料は1日数百万円で、金額的に合いませんでした。

そんな折に見つけたのがカラオケ施設のパーティ会場です。ディスプレイがあって、音響が揃っていて、ネットがつながって、車椅子の人が利用できる多目的トイレも備わっていた。「これはいい!」と思い、会場にさせていただいたのが、カラオケパセラさんの新宿本店でした。カラオケ店のポテンシャルに気づいたのは、多分、eスポーツ業界で私が最初だと自負しています。

そして継続的に活動を支援してくださる企業を探す中で、先ほどのビジネスプランコンテストに出て優勝させてもらいました。その審査員の1人に現状を話すと「知り合いがいるのでつなぐよ」とJOYSOUNDさんを紹介いただいたのです。そうして部屋をかなり安く借りられることになり、昨年7月には「Any%CAFE」として会場を使わせていただけるようになりました。ここは完全予約制で必要な配慮を受けられる、年齢・性別・障害の有無という壁を越えて誰とでも交流可能なバリアフリーeスポーツ施設です。

   
2021年7月にオープンし「Any%CAFE」は、あらゆる人たちが交流可能なバリアフリーeスポーツ施設。
   
完全予約制で、着席・スタンディングのイベントをePARAスタッフのサポートの下、実施可能。音響設備等
も充実しており、今後は軽食の提供も検討中。
   
東京都港区港南2-5-12(JOYSOUND 品川港南口店内)/13:00~17:00/火・水曜営業(祝日を除く) https://reserva.be/epara

―もう一つ、ePARA内のプロジェクトチーム「Fortia(フォルティア)」はどういうものですか。

加藤 これは障害者の方が自主的に活動するサークルのようなもので、私たちは当事者ユニットと呼んでいます。ePARAの業務や仕事とは関係なく、自分たちはこういう活動をやりたいと手を挙げた人がいたときに生まれる、ePARAという組織を母体にしたeスポーツのグループという位置付けです。

もちろん継続性は必要で、事前にユニット設立の目的などに関してアンケートを行います。パソコンを貸し出したり渡したり、ほかに何が必要か、かかる費用の見積もりは、といったコミュニケーションをとりながら、きちんと運営ができそうかを確認。OKとなれば、プレスリリースを出し、その後の活動方針についても相談のやりとりをしています。

現在あるのはFPS Fortia、格闘ゲームのFighting Fortia、全盲の人のBlind Fortiaと聴覚障害者のDef Fortia。それにもうすぐプレスリリースを出す、健康を目的としたHealth careFortiaを加えて全部で5ユニットになります。

―具体的にはどのような活動をされているのでしょうか。

加藤 毎週か2週間に1回ミーティングを設け、そこに私やePARAの社員がサポーターという形で参加して、セッションしています。
そしてFortiaに仕事の依頼を頂くこともあります。例えば昨年末、戸田建設さんの組合の方から、「バリアフリーの障害者支援を目的として、eスポーツの交流イベントを何か企画してもらえないか」といった相談がありました。そこでFortiaを中心に14人の方が先方と打ち合わせを重ね、企画から運営まで携わることに。ゲーム内容から絵作りやYouTubeの台本まで、障害者の方が中心になって進め、私は一切関わっていません。

イベント当日もYouTubeの実況を担当したのは、アイザックス症候群という特定難病の方で、選手誘導も障害者の方自身が「Discord」というSlackのようなチャットツールを使って行ったりと、最初から最後までオンラインで彼らが手がけて大成功。イベント実施後のアンケート調査でも満足度が94%でした。本当に「すごいな」と驚くとともに「任せてよかった」と思いましたね。

―そして障害者の就労支援では、昨年4月に「ePARA VR/テレワーク就活Fes」を開催されました。こちらはどのような内容でしたか。

加藤 バーチャルリアリティを使った企業のオンラインでの障害者向けの求人イベントです。ヘッドセットやタブレットで出展企業の会社内を見学できるシステムを導入して、ログインすれば自由に見られるようにしました。そしてイベント中は企業ごとに社員の誘導に沿って、各社の説明を受けます。その後、各社ごとにPRの時間を設け、さらに個別の面談を調整するような流れです。いわばリクルートさんなどがやっている企業説明会のオンライン版。おかげさまで何人かは内定を頂きました。

―その後の離職率はどうなのでしょう。

加藤 離職率は低いと評価いただいています。私たちにはeスポーツを通して彼らの能力や性格、得手・不得手といった情報が集まりやすい。例えば時間管理が苦手で、大会に毎回遅刻をしてしまう人などいます。あるいは業務委託の結果、こんなテイストのイラストが期日までに納品できた、このテーマで原稿を書いていただいたなど、いろいろな要素をデータベース化しています。それを企業の方と共有しながら「こういった部分を受け入れられるなら、御社にとても合ってますよ」と提案できるので、マッチング精度は非常に高いですね。

障害者の半年間の離職率は普通50%を超えますが、私たちが紹介した場合、85%は1年以上継続しています。確かにまだ10人ちょっとしかご紹介できてないので、外れ値かもしれませんが、ただ満足度も非常に高く、辞めずに一線で働いていらっしゃいます。

   
「Any%CAFE」とは別の部屋で行われていた格闘ゲームの練習風景。声優でePARA 社員(Fortia 所属)という北村直也さん(手前)のアドバイスを受けつつ、腕を磨くチョコタルトさん(奥)。チョコタルトさんは大学院生でePARAの登録会員。ともに先天性全盲というハンディを感じさせず、活躍の場を広げている。

―人の紹介時には、一般的に多少脚色して伝える場合が多いですが、そのようにストレートに伝えるのは驚きました。

加藤 ゲームでは人柄が隠せないですからね。芸能人のタモリさんも面白いことを言っていて、赤塚不二夫さんについて「麻雀は下手だけどすごく奇麗に負ける。だからこの人は信じられると思った」のだとか。勝っても負けても、どういう態度に出すかは、ゲームだと明らか。周りを気持ちよくさせようと考える人と、自分だけ勝ちたくて場を荒らしてしまう人が両方いる。性格や人生観までどうしても出てしまうのかなと思います。

 
 
 
 

自分らしく輝ける社会とは

―加藤さんが掲げていらっしゃるのは「どんな人でも自分らしく輝ける社会」です。今、ePARAの活動を通して、改めて自分らしく輝くためには何が重要だと思いますか。

加藤 強みだけでなく弱みを自分も周りも知って、自分の輝ける環境がここかな、いや違うのかなと迷った際、周りも巻き込んで相談しながら決められることが大切かな、と思います。

私が公務員から転職したのも、自分の弱み強みを見つめ直したら、満員電車での通勤に耐えられなかったという部分も大きい。混み合って時々喧嘩も起きるような殺伐とした電車を使わない生活をしたいと考え、職を変えました。

同様に例えばパニック障害の人も満員電車が苦手だし、ADHDの人はプレッシャーに弱く、サイクルの速い業務だとパフォーマンスが発揮できません。けれどもパニック障害の人はテレワークだったり、ADHDの人なら期限にある程度余裕があって自分でペースがコントロールできる原稿作成のような仕事なら向いている。そんなふうに自分が最大限に輝く環境はどこかに必ずあると思うのです。そこを見つけるため、さまざまな業務を試し、実習を積んでもらう。それを周りが認め、また手伝いをしてあげる。能力的かも業務的かもしれないし、あるいは人間関係かもしれないですが、いろいろと試みてどこにフィットするか、見つけることが大切ではないでしょうか。

―やはり多様な選択肢を提示できる環境はとても大事ですね。

加藤 はい、それは健常者でも同じです。それが実現できれば健常者も高齢者も働きやすい環境になり、ゆくゆくは全員に返ってくるのです。私たちが「障害者向けスポーツや就労支援をやっている」と話すと、自分事と思っていない方がまだ多い。でも普通の人も加齢とともに白内障になったり耳が聞こえづらくなる。みんな障害者になって死んでいくわけで、これも自分のことだし親のことだし、子どものことなんだと、自分事として受け取ってもらいたい。

私も身内から「障害者を支援して偉いね」と言われたことがあるのですが、「とんでもない。偉くなんて全然ない。彼らは実際にすごいから」と思います。彼らをただ客観的に見ているだけで、逆に彼らから助けてもらうことも、助けることもある。双方向の交流が、日本はまだこれからだなと感じますね。

―海外だと当たり前の「ありがとう」「どういたしまして」といった障害者と健常者のフラットな関係ができにくい日本では、ゲームやエンターテインメントを一つのソリューションとして乗り越えていくのはあるのでしょうね。

加藤 だからePARAともう一つのNPOでやっていることは同じで、認知症になっても人間らしく生きていける仕組みが成年後見制度であり、それを広めているんだと思っています。認知能力のあるうちはeスポーツやゲームなどでコミュニケーションを取りながら人生を楽しんでいただき、能力が衰えて自分でお金の管理ができなくなれば成年後見のNPOで引き受けますよ、といった感じです。だから一貫して、生き生きと輝けるような環境づくりに取り組んでいるというふうに、自分の中では認識しています。

―では最後に今後のビジョンについて、特に力を入れていきたい項目などあれば教えてください。

加藤 コロナ禍で2年ほどオンラインで活動してみて、オンラインの便利さもあるのですが、フィジカルなオフラインで交流できる場所の必要性を感じています。やはりZoomだけだと人間味がないし、逆にパフォーマンスが落ちたり、疲れてうつ傾向にある状態が気づきにくかったりする。そこでほかの人と接点を望めば持てる、たまり場のようなサテライトオフィスをつくろうと思っています。会社から離れたサードプレイスで、我々ePARAのスタッフが必要なケアができるという、シェアオフィスみたいなイメージですね。家では集中できず、会社はバリアフリーが整っておらず、相談できる人もいない。そういった環境を補完し、業務指示もそこで受けられるような働きやすいオフラインの空間を、東京だけでなく全国に広げていきたい。うちの社員、一人は岩手県で完全テレワークで働いてますし、業務委託者は九州から北海道までいますので。