エンターテインメントの 拠点となるeスポーツ

2022年7月 5日 15:03 Vol.80
   
秋山 大
東京eスポーツゲート(株)取締役
Dai Akiyama
凸版印刷(株)にて事業戦略本部、トッパンアイデアセンターにてデジタル領域の新規ビジネス企画・創出を担当。その後、アクセンチュア(株)戦略コンサルティング部門にて製造小売り業界のリーディング企業における、主にデジタル/アナリティクスを用いてトップラインを伸ばすプロジェクトに従事。その後VRベンチャーの戦略責任者を経てデジタルリアリティ(株)を設立し、主に不動産業界向けのXRソリューション提供、大手企業への新規事業創出コンサル、スタートアップへの戦略支援を展開。

近年、eスポーツは対戦リーグも盛んになり、リアルな会場での大会が実施され、ホテルや街中などにプレーする場も増えている。そんな中、東京タワーを拠点として、eスポーツをはじめとするエンターテインメントを世界に発信させようと新たな取り組みを始めた会社がある。ますます人気が高まるeスポーツの魅力の伝え方や、多くの人々が楽しめる仕掛けづくりのためのビジョンとは。
text: Masashi Kubota photograph: Kentaro Kase
                                                        

なぜ「東京タワーでeスポーツ」なのか

―「RED ゜TOKYO TOWER(レッド トーキョータワー:以下RED゜)」は2022年4月20日にグランドオープンしたばかりです。ゴールデンウィークは、さぞお忙しかったでしょう。

秋山 そうですね。今回のゴールデンウィークは全国的に多くの方が外出されたようで、RED゜もたくさんのお客様にお越しいただきました。

―RED゜のキャッチコピーは「日本のアソビの、新熱狂。」ということですが、具体的にはどういった構想の施設なのですか?

秋山 RED゜は東京タワー直下の商業施設「フットタウン」内の1階・3〜5階の合計5,600㎡に及ぶ空間を使った、世界最先端の技術を駆使したeスポーツのアミューズメントパークです。基本構想は東京eスポーツゲート(TEG)代表の原康雄が立案したもので、eスポーツをはじめとするデジタルエンターテインメントに日本ならではの文化と感性を融合させ、リアルとデジタルがシンクロする、まだ見ぬ体験を世界に発信していきます。

―どういった経緯で東京タワーにこのパークが誕生したのでしょうか。

秋山 フットタウンにはそれまで人気アニメ「ONE PIECE」のテーマパークである「東京ワンピースタワー」がありましたが、2020年に閉園しました。これを受けて、東京タワーを運営するTOKYO TOWERからご相談いただき、計画が動き出したのです。

コロナ禍でスタートした企画ですから、原は「リアルに人が集まれない中、どうしたら人と人をつなげられるか」と考え、「eスポーツをテーマに、リアルとオンラインを融合する空間を創り上げよう」という方向性を決めました。

eスポーツを軸にしたアミューズメント施設「RED゜TOKYO TOWER」の構想が採択されたのは2020年の夏。コロナ禍の最中のことで、そこからフロアの改修に着手し、2年後の本年4月にオープンとなったわけです。

―RED゜の立案者で、TEGの創立者でもある原さんは、どのような経歴の方ですか。

秋山 原は京都の出身で、同志社大学工学部からリクルートに入社、リクルートで長く事業企画に携わってきました。2015年に独立して不動産関連のコンサルティング会社を設立し、この会社が2020年、SANTAVEL(サンタベル)とともに、eスポーツ特化型のホテル「esports hotel e-ZONe ~電脳空間~」という施設を大阪の日本橋にオープンさせたのが、eスポーツとの出会いだと聞いています。

―秋山さんご自身はなぜRED°のプロジェクトに参加されたのですか。

秋山 RED° の構想が正式に採択された後、2020年12月にTEGが設立されました。ですからTEGは、まだスタートアップといっていい若い企業です。
私の場合はTEG 設立の少し前に声掛けいただき、事業計画のサポートに入っていました。実際に事業が進んできて、「これは勢いがあって面白いな」と感じ、翌年4月からTEGの役員として参加させてもらうことになったのです。

私自身はこれまでデジタル関連のビジネスに多く携わっており、元々大手印刷会社のeビジネス部門にいたのですが、その後、外資系経営コンサルタント会社に移り、アナリティクスを使ったトップラインを伸ばすプロジェクトを主に担当していました。VRベンチャーに関わったり、大手企業の新規事業をお手伝いしたこともあります。

―皆さんにとって東京タワーとはどんな存在ですか? eスポーツをあえて東京タワー内の施設で行う意味はどこにあると思いますか。

秋山 東京タワーは非常に象徴的な場所だと思います。今まで電波塔としていろいろな情報を発信してきて、日本人でその名を知らない人はいません。新しいエンターテインメントの発信基地として、これ以上にふさわしい場所はないでしょう。

実際にRED°をオープンしてみると、私たちが予想していた以上に「私は東京タワーが好きです」という人が多く、TEGが東京タワーで新たな文化発信の試みを行っていることに対して応援の声をくださったり、「いいね!」をつけてくれる人がたくさんおられ、東京タワーの求心力の強さを改めて感じました。

東京タワーはライトアップされた姿も美しくて、東京の紹介ビデオには必ず映像が出てきますよね。東京の象徴という文脈において、東京タワーはまだまだ現役なんです。その場所からeスポーツのような新しい文化を発信していくことは、今の東京タワーに期待されている役割にまさにぴったりだと感じています。

 
 
 
 

eスポーツとリアルスポーツの融合

—日本のエンターテインメント文化の中で、eスポーツは現在どのようなポジションにあるのでしょうか。

秋山 eスポーツをやっている若い子たちは、「自分はeスポーツをやっている」とは実は思っていないんです。「僕は『フォートナイト』が好きだからゲームをやってる」とか「『エーペックスレジェンズ』が好きだからやってる」という感覚です。そういった対戦型のゲームをビジネス界の人たちがまとめて「eスポーツ」と言っているだけです。

若い世代では1人でパソコンでゲームをするよりも、ネットでつながってほかの人たちと対戦することが多くなっています。友達だったり、その場で集まった知らない者同士だったり、ゲームで遊ぶ仲間がオフラインでもつながって、一緒に遊んでいることもよくあります。練習も仲間で集まって一緒にやったりしていて、ゲームで遊ぶこと自体がスポーツをするのに近い感覚になっているんですね。

—それはゲーム自体が競技化しているということですか。

秋山 ええ、ゲームファンは上の世代がスポーツをする感覚でゲームを楽しんでいますよ。
PCでもスマホでも、あるいはPlayStation(PS)のようなコンソールでも、「何日何時に集まって一緒にやろう」というように、協力し合って目標を攻略したり、チーム同士で対戦しています。オンラインゲームの多くにはランクシステムがあり、チームが勝ち続けるとランクが上がっていくようになっています。個人のランクもあって、トップクラスの人は競技レベルで闘っているといっていい。そこからプロになる人もいます。

チームを組んでサッカーや野球の試合をやって、勝てば全員で盛り上がる。それと同じです。リアルスポーツと違うのは、PCやスマホでやっているのでベッドの上からでも参加できるし、オンラインで盛り上がれることです。

—ただRED°の施設を見る限り、PCやスマホのゲームは主役ではないように感じます。

秋山 世界的に見るとeスポーツではPCゲームが中心で、日本だとコンソールのゲームもよく遊ばれています。とはいえPCやコンソールを揃えただけでは、コアなゲームファンしか来てくれないでしょう。

RED°は「最新トレンドに敏感な10代後半から30代前半の男女」を中心に、eスポーツマニアだけでなく、ライトなファンまでを幅広く対象にしている施設です。「必ずしもeスポーツをやり込んでいるわけではない人たちに、最新のテクノロジーやeスポーツに触れて楽しんでもらうにはどうすればいいか」を考えて施設を構成しています。

参加者がヘッドマウントディスプレイ(HMD)とアームセンサーを装着し、ARで表示されるエナジーボールとシールドを駆使して、フィールド上でチームバトルを行う「HADO」や、センサーとプロジェクションマッピングの組み合わせで、ボールを床に投影してエアホッケーなどのゲームができる「CYBER STADIUM」、VR 空間で走りながらガンシューティング対戦を繰り広げる「TOWER TAG」といったeスポーツは、専用装置を使いリアルなスペースで楽しむ体感型のeスポーツで、「超人スポーツ」と呼ばれています。これは実は日本発の遊びなんです。そのためのエリアを我々は「フィジカルeスポーツ」と呼んでいます。

私たちは一般社団法人「超人スポーツ協会」と協力し、こうした新世代のフィジカルスポーツも導入してRED°を盛り上げていこうと考えたわけです。

   
センサー×プロジェクションマッピングの次世代体感型アトラクション「CYBER STADIUM」では、ホッケー、リズムゲームなど4種類のゲームが楽しめる。
   
障害物ドローンレースのエリアで使用される約34gのマイクロドローン。ドローン初心者でも楽しめるイベントも開催。

―RED°の特色として、体を使う遊びが多いことに加え、野球やゴルフ、バスケットなど、リアルスポーツをeスポーツ化したものが目立つと感じました。

秋山 それは私たちがeスポーツの盛り上げ方の一つとして、「デジタルをリアルなスポーツにつなげていく」ことを考えているからです。例えば「RED ゜E-MOTOR」は何種類ものドライビングシミュレーターを備えたeモータースポーツエリアで、最先端のマシーンでレーシングシミュレーションを行い、プロのレーサーの記録に挑戦することができます。「バーチャルのeモータースポーツとリアルのモータースポーツの両方の世界観を楽しめる唯一無二の施設」と言っています。

また「RED ゜SPORTS BASEBALL」では、楽天イーグルスとのコラボにより、VR 技術でプロのピッチャーの投球を再現しています。プレーヤーはHMDを装着し、バッターとなってプロの投手と対戦することができます。デジタルの野球でありながら、リアルの野球とつながっているんです。

リアルスポーツとeスポーツを接続して、リアルのスポーツ選手がデジタルで練習したり、デジタルの競技自体がビジネスとして成立していくような形をつくっていく。互いに連携していくことで、eスポーツもリアルのスポーツもどちらも盛り上がると考えています。ですから例えば、eモータースポーツとモータースポーツの連携にも力を入れています。TEGでは名門レーシングチームの「Hitotsuyama Racing」と組んで、リアルの耐久レースに参戦したところです。

普通の人はサーキットにレースを見に行っても、自分自身はレースには参加できませんよね。しかし、eモータースポーツであればプロとでも対戦することができるし、そうした活動を通じて、リアルなモータースポーツのファンも増えていくはずです。

―eスポーツが発達していくと、リアルスポーツの練習方法も変わってきそうですね。

秋山 実際すでに変わってきていますよ。リアルなスポーツの選手の動きについてもデジタルで分析されていますし、練習をシミュレーターで行うことも増えています。カーレースの場合はトップドライバーもドライビングシミュレーターで練習したり、車の開発までしています。

モータースポーツの場合、これまでトッププロになるためには10歳ぐらいからカートで練習する必要があるといわれてきました。しかし、これには大変なお金がかかる。しかしeモータースポーツでなら、それほど金をかけずとも若いときから練習ができます。
そこでうまくなった子が成長して、リアルのモータースポーツでも選手になっていくかもしれないし、あるいはeモータースポーツそのものが活躍の場になるのかもしれない。そうなるとリアルだとかデジタルだとか、もうあまり区別がなくなってくるでしょう。

実際、「Hitotsuyama Racing」所属の宮田莉朋選手は、全日本F3選手権でチャンピオンとなったリアルのカーレーサーでありながら、幼い頃からPSで「グランツーリスモ」というレースゲームをプレーするのが大好きで、RED°のグランツーリスモのドライビングシミュレーターでもトップの記録を持っています。最近もeモータースポーツの「iRacing」のランキングで日本の1位になって、ドイツのeスポーツチームから「プロとして参加しないか」というオファーも受けたりしています。ある意味、リアルのモータースポーツとeモータースポーツが融合しつつあるんです。

   
まるでゲームの世界に入ったような感覚の「KAT WALK」は、さまざまなコンテンツがプレーできるVR空間。
   
「RED゜E-MOTOR」では、バーチャルとリアルのモータ
ースポーツの2つの世界観を味わえる。最先端の「TOM'Sマルチシミュレーションシステム」のコックピットは本物と同じサイズ。6本の電子制御ダンパーで、微振動や立体的な動きを再現。
 
 
 
 

eスポーツと他ジャンルとのコラボレーション

秋山 RED゜ではもう一つ、「eスポーツだけで閉じないこと」を運営の基本としています。

TEG 代表の原はRED°のオープン前、メディアの取材に応えて「eスポーツを軸としつつも、現状でユーザーがより多いソーシャルゲームや、囲碁・将棋など伝統的なボードゲーム、また“ 推し活”と呼ばれるカルチャーを生み出したアニメや漫画、音楽、YouTuber、VTuberとのコラボレーションなど、横断的な各ジャンルをRED°の重要な柱に据える」と述べています。

—それは具体的にはどういう活動になりますか。

秋山 リアルのライブステージとeスポーツを組み合わせたりといったことですね。若い世代はeスポーツをプレーするだけでなく、それを通じて知り合った友達と遊んだり、ファッションなども含めて楽しんでいます。私たちもRED°では音楽や飲食も含めて楽しめる空間を提供していきます。

ファッションや音楽やキャラクターグッズなど、いろいろな文化を盛り込んで、カップルやグループ、あるいはご家族で来場していただき、eスポーツ自体を全く知らなくても、小さな子どもであっても楽しく過ごせる、そうした施設を目指しています。

eスポーツの大会にしても、ゲームの進行をMCが解説し、間にファッションショーを挟んだり、有名なミュージシャンが歌ったり、さまざまなジャンルのカルチャーとコラボしつつ、お客様が楽しめるショーとして演出していく。

例えばプロ野球の球場に来るファンでも、「野球自体はよくわからないけど、この空間が好きだ」という人たちがいますよね。リアルのスポーツと同様に、eスポーツも見るだけで楽しむことができます。施設としては選手だけでなく、そういうライトなファンも取り込んでいきたいということです。

―RED°のブランドスローガンは「アソビの、新境地へ。」ですが、今後、バーチャル空間におけるアソビはどう進化されると思われますか。eスポーツによってエンターテインメント文化も変化していくでしょうか? 

秋山 はい、そう考えています。昨今、バーチャルリアリティやメタバースが広がってきました。これも「アソビ」に影響してくるでしょう。
メタバースの場合、リアルでない分、自由に表現できるし、いろいろな人とつながることができます。

自分のリアルと一致するアバターで参加してもいいし、それが嫌だったら違うキャラクターを使ってもいい。アバターは年齢も性別も完全に自由で、同じキャラクターで通すこともできるし、違うキャラクターを使い分けることもできます。メタバースごとに違う自分になれたら、遊び方も自己表現も変わっていくでしょう。eスポーツもメタバースによって広がりが出てくると考え、我々もメタバースにおけるeスポーツの普及に積極的に取り組んでいきます。

―RED°のような、ある意味で“ごちゃまぜ”の世界では、「リアルのこれとデジタルのこれを組み合わせたら、こうなるんじゃないか」というような、新しい発想が生まれやすいだろうと感じます。PCを1人でやっていると発想にも限界がありますが、こうしたリアルの場に来ると、音楽やCGを含め、多彩なものに触発されて、発想が広がりそうですね。

秋山 おっしゃるとおりで、そのために音楽や空間の演出にも力を入れて作り込んでいます。私たちの目から見ても、最先端のテクノロジーやさまざまなカルチャーを“ごちゃまぜ”にして、全部詰め込んだのがRED°という印象はあります。クリエイターを引きつけ、刺激するような施設、多様なカルチャーがここで生まれ、ここから発信されていく、そういった文化の発信基地にRED°を育てていきたいです。

 
 
 
 

世界における日本のeスポーツ

―日本のeスポーツの現在のポジションは、世界的に見るとどうなのですか。

秋山 世界のeスポーツのマーケットは現状ざっくり1,000億円規模とされますが、ゲーム誌『ファミ通』によれば、2020年の日本のeスポーツ市場規模は67億円。現状では世界の1割にも満たないわけです。

個人としてレベルが高い人たちはいます。国際大会で優勝したり、グローバルな大会で活躍してお金を儲けている人たちですね。先日もアイスランドで行われたシューティングゲームの「VALORANT(ヴァロラント)」の世界大会で、日本代表チームが3位に入賞し、話題となりました。ただ彼らも日本の中では活躍の場が少ないのが現状です。

海外ではeスポーツへの期待が非常に大きく、大会に対してもすぐにスポンサーがつき、多額のお金が入ってくる状況があります。それにより賞金総額も大きくなって大会は魅力的になり、そこで勝った選手はスターになる。選手がヒーローになれるので、それに憧れて新たに参加する人たちもたくさん出てくる。そういうプラスの循環ができています。

残念ながら日本では、まだeスポーツに注目が集まるような流れができていません。これはそう簡単にはいかないことで、eスポーツそのものがボトムアップして、盛り上がっていかないとだめでしょう。

―TEGは「エンターテインメント経済圏のグローバルな拡大」を掲げていますが、インバウンドや海外市場もターゲットとしているのでしょうか。

秋山 中国、韓国、インドネシアなどはゲーム人口が多く、また若いプレーヤーが主流なのも特徴です。1つのゲームで1億人以上のプレーヤーがいるケースもざらにあります。そうしたプレーヤーたちにも日本への憧れはあるので、東京タワー内にあるRED°に対するニーズは大きいと見ています。

東京タワーの場合、コロナ禍に見舞われるまで全来場者の多くを外国人観光客が占めていました。RED°のスタジオから配信された映像は海外でも見ることができますし、今後、コロナ禍が収まれば、RED°としてもメインターゲットとしてインバウンド需要を取り込んでいく必要があると考えます。

―RED°はeスポーツの国際大会を開催できる施設でもあるわけですね。

秋山 メインアリーナの「スカイスタジアム」は200人以上を収容でき、4面に大型LEDパネルを設置。リアルタイムで3DCG映像を合成できる映像システムを備え、映像配信やメタバースなどのデジタル空間を連動させた新体験をお届けする、日本初のハイブリッド型アリーナです。国際大会はもちろん、日本の各種eスポーツ大会の決勝戦も、「同じやるなら、RED°で」と思ってもらえるようなポジションを目指しています。

eスポーツでも世界トップレベルのスタジアムとして対戦や大会を行い、その様子をその場でも見られ、オンラインでも見られるようにしていく。中に閉じず外に発信していき、ここで起きていることをみんなに見てもらうつもりです。

eスポーツのトップ選手の競技レベルだけを上げようとしても実際には難しく、まずはファンを広げて全体を底上げしなくてはいけないという現実もある。ここで試合を見たことでeスポーツにはまって、将来eスポーツの選手になる子も出てくるかもしれません。そういうライトに入っていけ、かつ奥行きもちゃんとあるような流れをつくっていきたいと考えています。

―東京タワーという場の力も手伝って、そう遠くないうちにeスポーツにおけるRED°は音楽における“日本武道館”のような存在になりそうですね。

秋山 我々も「RED°でプレーするのが夢」といわれるような“ 聖地”を目指しています。そのために海外のeスポーツのトッププレーヤーを招致してファン向けのイベントを開いたり、大きな大会の決勝戦をここで行ったりといったことを通じて、コアなeスポーツファンも熱くなれるようRED°を盛り上げていきます。

 
 
 
 

eスポーツ市場の急速な拡大

―創立から2年足らずということですが、現在のTEGの社員数はどれくらいですか。

秋山 実は当社は、去年の3月までは社員ゼロでした。4月1日に初めて1人入り、その後どんどん増えています。社員は1年経った今も日々増えており、現時点で40人以上の社員がおり、業務委託という形で働いている方々もいます。

施設についても4月20日オープンのRED°に続いて、4月29日にはRED°ブランドの第2弾として、2人で利用可能なプライベートサウナ「RED° E-SAUNA UENO(レッド イーサウナ ウエノ)」をオープンしています。心拍数などを計測する専用ブレスレット「TOTONOU BAND」を受付時に装着し、“ととのう”を科学する新しいサウナ施設です。

この2つの施設だけでもたくさんの社員が働いていますし、今後も国内各所で施設を展開。リアルとオンラインでのイベントを開催し、さらにはデジタル上でNFTなどによるトークンエコノミーを構築するなど、eスポーツを軸としたエンタメ領域における「RED°経済圏」を創出していく予定です。社員もますます増えていくでしょうね。

―わずか2年で大変な急成長ですが、資本関係はどうなっていますか。

秋山 資本は第三者割り当てで調達しています。出資者はJT(日本たばこ産業)さんやIMAGICA(イマジカ) GROUPさん、プロパティエージェントさんなど、皆さん何かしら事業面でeスポーツとシナジーのある企業です。JTさんは若い世代にアピールしていきたいという狙いをお持ちですし、イマジカさんはデジタル分野で映像システムを手掛ける「IMAGICA EEX(イマジカイークス)」を傘下に持ち、RED°のスタジアムやスタジオを一緒に作っています。プロパティエージェントさんは顔認証のシステム「FreeiD」を持っており、これをRED°に導入しています。

―TEGは独自のサステナビリティビジョンを掲げ、エンターテインメント施設を教育に活用するといった活動にも注力されていますね。

秋山 学校と組んで、RED°を修学旅行の一環に組み込んでもらったり、スタジオにはたくさんのPCがあるので、職業体験やプログラミングの研修などに使うこともできます。TEGに出資もしているメディアクリエイトコミュニケーションズさんはキッズ向けのプログラミング教室を手掛けており、実際にRED°のスタジオでの協業を予定しています。この4月には港区の小学校と一緒にゲームとエデュケーションを組み合わせた取り組みを行ったのですが、大変好評でした。教育需要を取り込んでいくこともRED°にとって重要なチャレンジと考えています。

―TEGとして、今後のeスポーツの可能性をどう見ていますか。

秋山 eスポーツは幅広い産業分野と関連を持つ、21世紀の新産業として期待されており、これからの可能性は非常に大きいと感じています。
eスポーツの市場はまだ小さいとはいえ、日本には約4,000万人のゲーム人口があるといわれています。国内のeスポーツファンの数も、2019年には483万人だったものが、2023年には1,215万人と2倍以上の成長が見込まれており(「KADOKAWA Game Linkage」調べによる)、経済産業省では国内のeスポーツの市場規模も、2025年には3,000億円に達するものと推計しています。

ただ現時点でeスポーツの市場が小さいということは、そこにまだ価値を見出していない人が多いということ。そこを我々としていかに触発し、市場を伸ばしていくか。せっかく日本にはインベーダーゲームやファミコン以来のゲーム文化の長い歴史があるのですから、昔のゲームを活かしたりして、海外に後れを取らないように成長させていきたいですね。

我々が考えている取り組みは、一つはeスポーツが好きな人をより増やして、全体のベースを引き上げていくこと。もう一つはお金が流れ込む仕組みを作ることで、例えば試合の実況でもファンが好きな実況者を“ 推し”て、その人が実況したときに投げ銭をしたり、その人のグッズを買ったりといった、草の根的な活動を盛り上げていく。

そして同時にやはり企業さんに入っていただく。ファンを増やすこととお金が流れる仕組みを作ることが、eスポーツを盛り上げる両輪となってくるでしょう。私たちもそのためにいろいろ仕掛けているところです。