これからの観光地域づくりに 求められる視点

2023年7月10日 11:49 Vol.84
   
山田 雄一
公益財団法人日本交通公社理事・観光研究部長
Yuichi Yamada
1993年ゼネコン入社。不動産開発実務およびIT企業のスタートアップを経て、98年より財団法人日本交通公社(現:公益財団法人日本交通公社)。2009年に米国のセントラルフロリダ大学ホスピタリティ・マネジメント学部客員研究員。14年に筑波大学にて博士号(社会工学)を取得。その後、経済産業省のサービス政策部門にて調査企画官(2年)。旅の図書館長。武蔵野大学大学院客員教授。観光振興に関わる講演や著書等多数。主たる研究テーマは観光地ブランディングおよびマネジメント。近年は温泉地やリゾート地を主たるフィールドに、観光振興にかかる地方財源、空間形成、DMO実務をテーマに活動。

 
 
 
 

グローバリゼーションの中で生じたパンデミック

2年余りにわたり世界を覆っていたCOVID-19による災禍も、ようやく収束しつつある。

パンデミックの期間中、人々の移動は強く制限され時が止まったかのようだった。しかしながら、実際には、従前から生じていた「変化」が加速する期間だったのではないかと筆者は考えている。

1990年代の後半、我々は「インターネット」というサービスを手に入れた。インターネットは国境や既存メディアを超え、人々が自由にコミュニケーションできる世界を実現した。それから四半世紀が経ち、世界を自由に回るようになった情報と、それを元にしたコミュニケーションの変化は、社会も変えるようになっている。情報が自由に流通するようになったことで、人類にとって普遍的な価値、人権や環境意識といったものが共通認識として広がるようになったからだ。人権意識の広がりと高まりから生じたさまざまな「差別」の撤廃を求める動きも、環境意識の高まりによる大量消費、使い捨て文化からの脱却、脱炭素といったライフスタイルの転換も、インターネットがもたらした社会変化といえるだろう。

一方で、フラットな社会はグローバリゼーションという問題も生じさせることになった。経済的な取引ルールの均一化・共通化やネット通販の隆盛は国際的な商取引を活性化させる一方で、それまで国境や地域という「壁」で守られていた事業者を、国際的な競争環境に放り込むことになったし、人権問題、差別問題の解消に向けての動きは一部の国や宗教との衝突を引き起こすことにもなる。大国による隣国侵攻という事態が生じたことや、自由主義を掲げる国々においてもグローバリゼーションを否定するような政権が誕生してきたことは、この反動ともいえるだろう。

観光の世界も同様である。21世紀に入り、国際的な人流は大幅に増大した。これは、東アジアでの経済発展も寄与しているが、インターネットの影響も大きいだろう。インターネットの普及によって、我々は旅行会社やガイドブックに頼らない個人旅行が可能となったからだ。今では多くの人々が楽しんでいるFIT(Foreign Independent Tour / Free Individual Traveler)は、まさしくネット社会の申し子といえる旅行形態である。

我々は、世界のさまざまなところへ、自分たちの意思で自由に旅行できるようになったが、同時に、オーバーツーリズムという問題を引き起こすことにもなった。これは、インターネットの情報によって、大人数に対応できる観光施設ではなく、ローカルの人々が楽しんでいた施設や場所に、人々が集まってしまったことが原因である。さらに、SNSは仲間内、同じような嗜好を持った人々で閉じられる傾向にあるため、その地域の文化やルールへの意識が低くなりがちであり、その言動がローカルとの衝突を招きやすかったという側面もある。また、国際的な人流が盛んになれば資本や事業も国を越えて、欧米のホテルチェーンが地方を含めた幅広い地域に展開するようになり、従来の観光事業者(多くは中小零細)が追いやられていくという事態も起きるようになっている。

 
 
 
 

社会変化を加速させたパンデミック

このようにインターネットの普及は、人々を幅広くつなぎ合わせる一方で、各所での衝突も誘発しながら社会を変化させてきたが、その変化速度はパンデミックによって加速したと考えられる。

例えば、脱炭素や、性的マイノリティといった課題は、観光領域において、パンデミック前にはさほど顕在化はしていなかった。一部では意欲的に取り上げられていたものの、全体としては、沢山ある課題の中の一つという程度の認識だっただろう。しかしながら、飛行機によって移動することが「飛び恥」と呼ばれるようになり、現在では、航空券検索時に排出される炭素量が表示されるようになっている。また、性的マイノリティについても、つい最近まで話題に上ることすらなかったのに、その法制化が議論される水準にまでに課題レベルが高まってきている。

「就労や就学の場所と、居住や滞在する場所は当然に同じ」という常識が大きく崩れたのもパンデミックが影響しているだろう。動画を使ったリアルタイムなオンライン会議は、パンデミック前から技術的には存在していたものの、活用は限定的だった。しかしながら、パンデミックによって半ば強制的に普及が進み、ワーケーションやブリージャーといった概念が提示されるようになり、軽井沢町などは高額所得の転入者が続出するようにもなった。エンデミックに入り、リアル(対面)でのコミュニケーションも増えてきているが、オンラインを活用するという流れは変わらないだろう。

パンデミックは、また、住民の観光への意識も変容させた。前述したように、パンデミック前、世界中で観光客は増え、それは前述のようにオーバーツーリズム問題を現出させた。地域は来訪する観光客に翻弄されたが、皮肉なことに、パンデミックによって観光客の波はピタリと止まり、平穏な生活を取り戻すことができたからだ。もちろん、観光客が来ないことで経済的に困窮した人々も少なくないが、自分の地域を「独占」して楽しめる喜びを感じ、その大切さを再認識した人は多い。これは、これまで国際化とか経済発展という名目で観光振興に取り組んできたことに疑問を持つ機会となった。

これらは、いずれもパンデミック前から「芽」はあったものである。しかしながら、さまざまな関係の中で日々動いている社会では、その芽が育つ速度は遅く、変化を及ぼすには時間が必要であった。それが、パンデミックによって社会の動きが鈍くなったことで、人々に「我に返る」時間を与え、思考を加速することにつながったというわけだ。

 
 
 
 

海外リゾートで顕在化した動き

変化が加速した社会において、海外リゾートも変化してきている。

例えば、世界的に有数のリゾート、米国ハワイ州。1990年代に日本人観光客の減少という事態に対応するため、宿泊税を導入。その税収を原資に広範かつ高度なマーケティングを展開したことで、観光客数および観光消費額を急増させることに成功した。この復活劇の立役者は、ワイキキビーチやデューティーフリーショップではなく、「ロコ」と呼ばれるハワイの人々が楽しんでいる日常であった。これは、団体客による大量消費型、歓楽型の観光からFITを主体としたネット社会ならではの観光の魅力であり、ハワイだからこそ提供できる魅力でもある。これを見出し、事業化を実現したハワイ政府観光局の傑出した成果であり、これによって、ハワイ州は2000年代、最も成功した観光地の一つにもなった。

しかしながら、そのハワイ州はパンデミックを経て、観光誘客のためのプロモーションに取り組まないという選択をした。これは、ロコを観光対象としたために、住民の日常空間にまで観光客が入り込むようになって多くの混乱が生じたことに加え、人流の遮断が、自然環境(水質や騒音、動植物の生息など)や、住民の文化的生活を大きく良化させたことが影響している。

ただ、観光がハワイ州の経済を支えていることは変わらない。そこで、ハワイ州では、観光客に責任感を持った自律的、自制的な行動を促すレスポンシブル・ツーリズム(Responsible tourism/責任ある観光)へと軸足を移すこととした。これは、ハワイ州に来る観光客に、地域の自然や文化、生活に対する敬意を持つことを促し、地域に負荷をかけず衝突を起こさない行動を求めるものである。

ハワイ州ではリジェネラティブ・ツーリズム(Regenerative tourism/再生型観光)と呼称しており、観光客もハワイ州が持つ自然や文化、生活を再興していく主体の一つとして設定している。そのため、ハワイ州から観光客に伝えるメッセージも「ハワイに(お客様として来訪し)休暇を過ごそう」から「ハワイを一緒に再生しよう」というものに変化している。

これに伴い、観光振興の目標も観光客数や消費額ではなく、住民の満足度や文化や環境の再生などに変化させている。これは、地域における観光の位置づけを大きく変える決断である。

さらに、欧州ではサステナブル・ツーリズム(Sustainable tourism/持続可能な観光)という概念が急速に広がっている。欧州でのサステナブル・ツーリズムは、脱炭素の動きと連動したものが多く、使い捨てプラスチック、ペットボトルの流通は大きく減少し、それに伴いワールド・ブランド、ナショナル・ブランドの飲料から、ガラス瓶に封入されたローカル・ブランドの飲料へと主体が変わってきている。また、多くの都市やリゾートは、中心部にカーフリーの空間を設け、路線バスやLRT、自転車道を充実させることで、マイカーに頼った移動から公共交通機関やシェアリング、徒歩などを主体にした街への転換が急ピッチで行われている。特にシェア・サイクルやキックボードは、多くの都市に導入され、住民も観光客も自由に使えるようになってきた。欧州内では自動車のBEVへの転換も進んでおり、鉄道を利用した移動についても注目されるようになった。地方部においても、電動のMTB(eMTB)の普及も著しく、山岳部のトレイルはハイカー(徒歩)、バイカー(自転車)が共用しながら自然を楽しめるようになっている。

   
ローカルで製造された飲料が「おもてなし」で並ぶ(デンマークにて筆者2022年9月撮影)
 
 
 
 

人々の意識が変化の源泉

ハワイ州のリジェネラティブ・ツーリズムと、欧州のサステナブル・ツーリズムは、いずれも観光による地域づくりを続けていくための取り組みであるが、違いもある。

まず、サステナブル・ツーリズムは、観光客の日常的な環境意識や生活習慣、価値観が基本であり、むしろ環境対策を求めるのは観光客側となっている。ペットボトルではなく、ガラス瓶を求めるのは、むしろ、観光客のほうだということだ。また、観光客が大勢押し寄せることは地域住民にとっても苦痛だが、観光客も同様である。有料にしたり、入場制限をしたりすることで、ゆったりと過ごせるのであれば、そのほうが助かると思う人も少なくなく、最終的には観光客の利益につながる取り組みである。

対して、リジェネラティブ・ツーリズムはより観光客に自律的な行動を求める傾向にある。ハワイの自然や文化に関する知識や、地域に対する敬愛意識が求められるものとなっているからだ。

すなわち、サステナブル・ツーリズムは(どちらかといえば)観光客が目指す方向に地域住民も追随していく構図であるのに対し、リジェネラティブ・ツーリズムは住民が求める方向に観光客を誘導しようという構図になる。いずれも、目指すところに大きな違いはないが、観光客と住民という2つの主体をどのように位置づけ、それにどのように働きかけるのかという手段の違いがあるということだ。

 
 
 
 

観光・ツーリズムとは何か

こうした新しいツーリズムの多次元性を理解するには、観光とツーリズムの違いを認識することが助けとなるだろう。観光とは何かというのは、議論が分かれるところであるが、その定義の源流は「自己の自由時間の中で、鑑賞、知識、体験、活動、休養、参加、精神の鼓舞等、生活の変化を求める人間の基本的欲求を充足するための行為のうち、日常生活圏を離れて異なった自然、文化等の環境のもとで行おうとする一連の行動」(観光政策審議会, 1969)に求めることができる。この定義は高度成長期になされたものだが、バブル期を経て「今後の観光政策の基本的な方向について」(観光政策審議会, 1995)において「余暇時間の中で、日常生活圏を離れて行うさまざまな活動であって、触れ合い、学び、遊ぶということを目的とするもの」と再定義されている。

この定義は、「観光」を、対象となる時間が「余暇時間である」こと、旅行先が「日常生活圏ではない」こと、旅行目的が「生存や生理活動、業務に関するものではない」ことといった3つの面から規定している。この定義は、一般の社会において観光施設、観光旅行、観光客といった用語から想起する「観光」のイメージに近いものだといえるだろう。

一方、ツーリズム(Tourism)というのは、訪問客(Visitors)と地域の各主体との関係性やそこから生じる相互作用全体がツーリズムであるとしていると定義されている(Goeldner and Ritchie, 2009)。

日本における観光が、需要側の内面的な動機に注目した概念であるのに対し、ツーリズムは、元々需要と供給、双方を包含し、その相互作用による波及的な影響まで含む概念となっている。そのため、対象となる顧客層や地域が目指すアウトカムの組み合わせによって多様な「ツーリズム」が生まれることになる。

なお、「国家的課題としての観光」(松橋委員会, 2002)では、観光をツーリズムと同意であるとした上で、観光活動を維持させる社会システム全体を観光(=ツーリズム)としており、観光をどのように捉えるのかということについては、さまざまな議論がある。しかし、多くの日本人が思っている以上にツーリズムが対象とする社会的な範囲は広く、それが故に社会の影響を受けやすく、これに対応するため、システマチックな対応が求められるものであるということは、これからの観光を理解する上で重要だろう。

 
 
 
 

観光地域づくりのフレーム

多様な次元を持つ観光地の持続的な振興を考える概念として「デスティネーション・マネジメント」というものがある。2000年代に欧州を主体に体系化されたものであるが、その古典的、基本的なフレームワークは「VICEモデル」と呼ばれる。これは、観光地の持続性確保には観光客(Visitor)、産業(Industry)、地域(Community)、環境と文化(Environment and culture)の4者のバランスをとっていくことが重要だというものである。

このモデルに、前述のリジェネラティブ・ツーリズムを当てはめてみると、CとEが先行的に規定され、VとIを、そこに合わせていくというアプローチと整理できる。対して、サステナブル・ツーリズムは、社会的にEに対してVとCが同様の意識へと変わっていくのに合わせ、Iも合理的な判断としてサステナ系となっていくアプローチと整理できる。

このように整理してみると、発端が訪問客なのか地域住民なのかという違いはあるにせよ、人々の嗜好の変化が観光のあり方、枠組みも変えていくということがわかる。今では否定的に語られることの多い高度成長期の職場団体旅行、大広間での宴会であるが、観光旅行への経験値も低く、費用的なハードルも高かった時代においては、合理的な余暇活動であったし、地域側としても効率の良い収益事業であった。その当時の価値観に沿ったVICEモデルは成立していたといえる。それが、今日、否定的に語られやすいのは、人々の価値観や嗜好が時間経過とともに変化し、大型旅館の破綻、大規模開発への批判、遊興的な余暇活動への批判といったものが噴出し、VICEのバランスが壊れてしまったことにある。

すなわち、観光というのは普遍性を持った絶対的な概念ではなく、それぞれの時代に生きる人々の価値観、ライフスタイルによって大きく変わっていくものだということだ。

 
 
 
 

変化する水準

製品やサービスの品質について整理する考え方の一つに「KANOモデル」というものがある[図表1]。このモデルは、品質と顧客の満足度との関係を整理したものであり、3つのタイプに分解できるとしている。1つ目はその機能が備わっていなかったり、品質がさほどでなかったりしても満足度は下がらないが、それが良質であれば満足度が上がるというもの(動機づけ要因/Delighters)。2つ目は、その品質が高くても満足度は上がらないが、悪いと低下させるもの(衛生要因/Basic needs)。3つ目は、品質と満足度が比例関係にあるものだ(魅力要因/Performance needs)。

まず、当然ながらPerformance needsが重要である。観光の場合、交通アクセスや歩行者空間、価格、景観、環境への配慮などは、どの観光地でも求められる要素群となる。ただ、これだけでは選好される地域・施設とはならない。数多ある旅行先から自身が選ばれるためには「そこに行きたい」と思わせる動機づけ要因(Delighters)が必要となるからだ。そしてDelightersは、時間経過によってBasic needsに変容していくという宿命を持っている。温泉旅館における「露天風呂」というのうは2000年頃には珍しい設備であり、人々を惹きつける要素(Delighters)であったが、あっという間に、ないと不満を呼ぶ要素(Basic needs)となってしまったことは、その好例だろう。

この理由を理解するには、「イノベーター理論」が適切だと思われる。同理論は新しい商品やサービスが、顧客にどのように受け入れられ普及していくのか(または、していかないのか)を示すものである。この理論では、顧客をイノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガードと5つに区分しており、アーリーマジョリティまで広がりをみせると、一気に市場が拡大するとされる。

Delightersは、イノベーターやアーリーアダプターに支持されることから注目が集まっていくことになる。しかし、注目されれば、多数の地域や施設が同様の取り組みを行い、市場は一気にマジョリティ層に拡大する。この段階に至るとマジョリティの人たちにとっては、それがあるのは「当たり前」。イノベーターやアーリーアダプターにとっては「普及しすぎたので関心はない」となる。すなわち、市場の広がりに伴いDelightersからBasic needsとなっていくということだ。

   

 
 
 
 

変化に乗っていくために必要なこと

このことは、地域や施設が継続的に強く選好されるには、Performance needsに関わる項目を高水準で持ちつつ、Delightersを作り続けていくことが求められるということを示している。実際、前述した欧州の都市やリゾート、ハワイといった地域は時代に合った魅力(Delighters)を提供し続けているし、移動や滞在にかかる環境(Performance needs)も快適性を増している。

ただ、「次に何が当たるのか」ということを見極めることは、難易度の高い課題である。特に、現在はVUCAの時代とも呼ばれ、将来の予測が極めて困難な状況にある。過去からの振り返りや、定量的な調査分析によって、未来が予測できるものではなくなっている。こうした状況の中で、筆者が勧めたいのは女性や若者を意思決定の場に引き込むということである。現在の情報社会において、次の時代を創っていく主体は彼らだからだ。

2018年、国連の気候変動会議で脱炭素に向け強いメッセージを発したのは、スウェーデンの15歳の少女だった。当時、世界は彼女の行動をエキセントリックなものとして扱ったが、それから5年。脱炭素という流れはSDGsやESGという世界的な施策と不可分のものとなり、歩むべき方向性として幅広く認知されるようになっている。

近年、大きな課題として取り上げられることの多いDXも、デジタル・ネイティブと呼ばれる世代(概ね1980年以降に生まれた人々)にとっては、当然のことでしかない。

このように、新しい流れを生み出し、顕在化させるのは若者であり、女性であることが多い。言い方を変えれば、既に意思決定の中枢にいることの多い年長者、男性から出てくる意見は予定調和的なものになりやすく、変革には結びつきにくい。若者や女性を、意思決定の枠組みに入れ込んでいくことが変化への対応力を高める有効な手段であろう。

観光領域においては、さらに女性や若者を重視すべき理由がある。それは、旅行先の選定において女性は主導的な役割を担っており、また、市場の中心は若者であるからだ。京都市は世界に誇る観光文化都市であるが、この需要の中心は女性客であるし、家族旅行、カップル旅行の旅行先決定権も女性が握っていることが多い。女子旅で訪れた人々が楽しむ姿は、既に観光地で「当然」の光景だ。さらに、日本は人口構成では、高齢者が多い構造にあるが、観光市場については、絶対的に人数が少ない20代が大きな市場を形成している。人口が多い高齢者ではなく、若者が旅行市場を牽引しているのだ[図表2]。

さらに、観光が地域において振興されていくと、若い女性の地域への定着率が高まるという研究も出てきている。これは、観光産業が女性の雇用の場となるということに加え、観光が振興されることで交流が生まれ、女性が住みやすい地域となり、それが、さらなる観光振興につながっていくためではないかと考えられる。例えば、カフェのような事業、空間、時間は、女性の存在がなければ存立しえない。すなわち、顧客の立場でも住民の立場でも観光は、女性が鍵となりやすい存在だということだ。

   

 
 
 
 

不透明な時代に対応するには足元から

パンデミックを経て、社会の変化は加速しているが、その原動力は、女性やマイノリティ、さらには、デジタル・ネイティブといわれる若者たちだ。彼らは、ネットがもたらした情報流通の革新から、コミュニケーションを変革し、新しい価値観による新しい社会を創造してきている。

国際的な人流復活においても、また、ワーケーション/ブリージャーのような新しい旅行・滞在スタイルについても、「彼ら」の行動が大きく影響しており、その支持を取り付けることが競争力を持った観光地を実現していくための鍵となる。そして彼らは、地域内にも多く暮らしている。まずは足元にいる地域内の彼らの意見に耳を傾け、彼らの視点から地域づくりを行っていくことが、先行きが不透明な時代におけるVICEモデルの再構築へつながり、「住んでよし・訪ねてよし」の観光地域を実現していく道なのではないだろうか。

公益財団法人日本交通公社