パッケージで挑む、食の課題解決

吉川 正浩

大日本印刷(株)包装事業部マーケティング戦略本部本部長

高森 寛子

同社同事業部同本部事業開発部マーケティング推進グループリーダー

2020年12月25日 15:48 Vol.74
   
吉川正浩
大日本印刷(株)包装事業部マーケティング戦略本部本部長
Masahiro Yoshikawa
1987年大日本印刷入社。PAC(パッケージングセンター)の配属となり、包材開発 に携わる。98年から3年間、米国ニューヨークに駐在。2012年に事業企画部、18 年にマーケティング戦略本部に着任。20年より現職。
   
高森 寛子
同社同事業部同本部事業開発部マーケティング推進グループリーダー
Hiroko Takamori
1999年、お茶の水女子大学卒業後、大日本印刷入社。包装事業部の配属となり、産業資材や食品等の包装材料開発に従事。2005年、リクルートに入社し、メディアプランナーとして情報誌の編集に携わる。10年、大日本印刷に再入社、医薬品包装のプロジェクトチームにて、服薬管理パッケージ開発に従事し、19年より現職。新規事業開発を担当している。

食品を食卓に届けるプロセスで重要な役割を担っているのが食品パッケージだ。鮮度や味をいかに落とさずに長期保存するか、その技術の発展によって食卓で気軽に楽しめるようになった食品も多い。そして食のスタイルの変化とともに、パッケージに求められる役割はさらに広がりつつある。最新のパッケージ技術は、食の届け方や食卓をどのように変えるのか。大日本印刷(株)包装事業部にパッケージの最前線について話をうかがった。

― 御社が食品のパッケージを手がけるようになった経緯を教えてください。

吉川 大日本印刷(以下、DNP)は1876年の創業で、最初は書籍印刷からのスタートでした。1915年には「拡印刷」を掲げ、それまでの出版印刷などで培ってきた印刷技術と情報技術を応用し、布や厚紙、プラスチックや金属などへの「印刷」にも展開。領域を広げていきました。その流れで、厚紙でできたキャラメルの箱を作るようになったのが、我が社のパッケージ事業の始まりです。

現在、DNPのパッケージ事業は、大きく分けて、紙を用いた紙器、プラスチックの袋の軟包装、プラスチックの容器の成形品、それ以外にもパッケージに内容物を充填するシステム等もあり、幅の広い分野で構成されています。

― 食品のパッケージ市場について、最近の動向はいかがですか。

吉川 私たちが製造している紙やプラスチックの素材だけでなく、びんや缶まで含めると、パッケージは日本で約5兆円の市場規模があります。日用消費財と人口は基本的に相関がありますが、食品ロス対応や核家族化でパッケージの小分け化が進んでいます。また、コンビニの小さな売り場に置けるようにパッケージが小型化する傾向もあって、人口が減っていても、逆に個数ベースでは増加傾向です。食品パッケージは生活シーンに合わせた変化をするので、必ずしも人口減イコール市場縮小ではありません。

 
 
 
 

バリューチェーン全体で食を捉える

― パッケージ市場で、DNPはどのような強みを持っていますか。

吉川 DNPは規模の大きな会社ですので、パッケージを作るだけでなく、商品企画や開発、デザイン、広告、さらに包装や充填の機械など、パッケージにまつわるさまざまなサービスを幅広く提供しています。

私が関わった中では、ペットボトル用の無菌充填システムの話が面白いかもしれません。実は日本で売られているペットボトル用無菌充填システムの約6割は我が社の製品です。パッケージと充填システムは直接関係がないと思われるかもしれません。パッケージの基本的な役割は中身を保存すること。例えばバリア性の高いアルミ箔や無機物を蒸着したフィルムをパッケージに使うなど、私たちは食品を少しでも長く保存できるように、さまざまな技術開発を積み重ねてきました。当然、充填・殺菌も内容物保護の研究テーマの一つです。その中で約40年前に生まれたのが、無菌充填技術です。それまで食品を充填するときは殺菌のために熱をかける方法が一般的でした。一方、パッケージや内容物自体を殺菌し、無菌の空間で充填する無菌充填技術を使えば、常温のままで充填して食品を長期保存できます。パッケージで長期保存する技術を研究していたからこそ、そこにものを充填する分野でもイノベーションが生まれて、それがビジネスとして育っていきました。

― 充填技術のイノベーションは、パッケージや食のスタイルにどのような影響を与えたのでしょうか。

吉川 まず乳飲料ですね。従来技術では、乳飲料は変敗しやすく、低温で保管する必要があり、熱をかけると乳脂肪分が固まってしまい、熱による殺菌が難しい製品でした。しかし、無菌充填技術が登場したことで、短時間の殺菌でパッケージ詰めが可能になり、賞味期限を延長することができました。

実はペットボトルで乳飲料が増えてきたのも、無菌充填技術との相性が良かったからです。この技術のおかげで、ミルクが入った飲料も風味を損なわず充填できるようになりました。

また、2000年頃から無菌充填技術によって、常温で充填できるようになったお茶のペットボトルが販売され始め、今では当たり前のように生活者が購入するようになりました。

それだけでなく、無菌充填技術により環境問題にも取り組んできました。ペットボトルはガラス転移点が低く、高温に弱い素材です。そのため熱いお茶で殺菌・充填していた時代は、熱で縮まないように耐熱処理をしたある程度の厚みのペットボトルが必要で、500mlのペットボトルで重さが30g近くありました。しかし常温で詰められるようになって、耐熱性が不要となり、薄くて半分近くまで軽くすることができるようになりました。カチカチに硬かったペットボトルが手でつぶせるくらいにペラペラになったのは、こういった理由からなのです。

開発当初はペットボトルを薄くすると、コストが下がってパッケージの提供価格も下がり、私たちの売上も減ることがありました。しかし、この取り組みによって最終的にはDNPを選ぶお客様が増え、生活者からも「地球環境にもいい」と評価されました。

   
   
DNPのパッケージ事業の中でも重要な位置づけにあるのが、ペットボトル用充填システム。無菌充填技術を開発したことで、飲料の風味を損なわず、薄く軽いペットボトルに入れられるようになった
   

― パッケージというと外側で包むものだけをイメージしがちですが、詰め方も含めてのものなのですね。

吉川 パッケージを開発するには、中身のことを知らなければいけないし、どうやって充填するか、どうやって流通させるか、さらに生活者にどう使われるのかということも考慮する必要があります。

DNPのパッケージ事業には、充填機・包装機械の提供を行う部門、デザイン部門、販促企画部門もあります。開発以外にもいろいろな部門があるのは、パッケージをバリューチェーン全体で捉えているからです。そこが我々の強みだと考えています。

 
 
 
 

電子レンジ調理を可能にする新パッケージを次々に開発

― パッケージの開発時は、「どうやって流通するか」「生活者にどう使われるか」というところまで考えるのですね。

吉川 流通のスタイルが変われば、パッケージも変わります。例えばECのチャネルが伸びて商品が店頭に並ばない場合、製品ごとにラベルを付ける必要はありません。すでにラベルのない通販専用のペットボトルも登場しています。ラベルがなくなれば私たちの仕事が減るのですが、考え方としては正しいので、このような変化に適応したパッケージ開発をしています。

   
自動蒸通のパウチ「DNP電子レンジ包材アンタッチスルー」。パウチ内の食品を他の容器へ移さずに温めることができる

― 生活者の視点を踏まえて生まれたパッケージのイノベーションがあれば教えてください。

高森 自動蒸通ができる「DNP電子レンジ包材アンタッチスルー」という製品があります。従来、パウチに入った食品を電子レンジで温める際には、いったんパウチから出して別の容器に入れ替え、ラップをかけなければいけませんでした。パウチのまま加熱すると、蒸気で膨らみ破れて中身が飛び散る危険があるからです。しかし、生活者からすると、いちいち別の容器に移すのは手間がかかるし、面倒な洗いものも発生してしまう。そこで電子レンジで温めると蒸気が外にビューッと出ていくパッケージを開発しました。これは、蒸気がいつも同じ場所から抜けるようにしたり、多層のフィルム構成を工夫して、中身がハンバーグでもスープでも、あるいは電子レンジのワット数が違っても対応できるように設計しています。

さらにこのパッケージは、透明蒸着フィルムを使用しています。食品を長く保存できる素材に金属であるアルミ箔がありますが、金属を電子レンジにかけると放電して発火するおそれがあるため、アルミ箔で作ったパッケージは加熱できませんでした。この問題を解決できる素材として「DNP透明蒸着フィルムIB-FILM」も開発して、ガラスのような無機物をコーティングしてバリア性を持たせています。このフィルムを使ったパッケージなら、アルミ箔のように長期保存でき、なおかつそのまま電子レンジにもかけられます。

最近では、電子レンジでそのまま使える紙カップ、「DNP断熱紙カップHI-CUP」をリリースしました。普通の紙カップはレンジにかけると焦げてしまう場合があり、安全に電子レンジで調理できる紙カップの実現は難しかったのです。しかし、焦げる理論を分析して、焦げない構造を考案。実際にさまざまなメーカーのさまざまなワット数で検証を繰り返して、電子レンジに対応した紙カップの開発に成功しました。

電子レンジで手軽に調理をしたいというニーズは昔から根強いものがあります。それに対して、5年、10年をかけて素材や加工方法を開発して、新しいパッケージを投入し続けてきたのが、近年の私たちの歴史です。

   
表面に無機物をコーティングした「DNP透明蒸着フィルムIB-FILM」。電子レンジにかけられ、長期保存のきくパッケージの開発に役立った

― ほかに、デザイン面で生活者の課題を解決した例などあれば教えていただけますか。

吉川 パッケージのデザインという点では、開け口をわかりやすくすることもその一つではないでしょうか。もちろんアイコンなどを使って「ここから開けます」というように、グラフィック的に示すこともありますが、それに加えて、設計で開けやすくすることも重要です。その意味でご紹介したいのが、レーザー照射の技術を活用した「DNP段差レーザーカットパウチ」です。

パッケージを開けやすくするための加工にはさまざまなものがありますが、サプリメントなどが入ったチャック付きのパウチなどの場合、きれいにまっすぐ開いても、指でつまみにくく、開けにくいと感じたことはないでしょうか。そこでレーザーを用いてフィルムの表面だけに傷をつけて、開けやすくする技術があります。

この技術を使い、パウチの表面と裏面にレーザーを照射する際に、位置をわずかにズラすことで、段差ができて指を引っかかりやすくする製品です。スーパーでレジ袋をもらったときに開けなくて困った経験をした人は多いと思いますが、あれは開け口に段差がなくてぴったりくっついているからです。あえて段差を付けて不揃いにすれば、そこから開けやすくなります。

― パッケージに関する生活者の困り事は、どのようにリサーチしているのでしょうか。

高森 まず、私たち自身も生活者です。ですから、「自分がイライラしたことがあったらメモを取りましょう」と話しています。もちろん自分だけでなく、一緒に暮らす家族のイライラでもいい。袋が開かないとか、キャップが固くて嫌だとか、日常の中でちょっと困った場面があれば、それをアイデア会議で出してもらっています。

社員から出たアイデアは、調査ルームで生活者にインタビューして確かめることもあります。直接話を聞くだけではなく、社内にカメラが設置されたキッチンがあり、そこに生活者にお越しいただき、パッケージのサンプルを渡して「調理してください」とお願いします。そのとき生活者はパッケージをどのように開けて、どのように中身を取り出すのか。その様子をビデオに撮って分析するのです。時には指にセンサーをつけてもらい、指の動きまで調べることもあります。このように科学的な裏づけを取りながら、お客様のニーズを探っているのです。

また「食MAP(Market Analysis and Planning)」というデータも活用しています。POSは誰が何を買ったのかはわかるものの、買った後、最終的にどのように調理されて食卓に並ぶかまではわかりません。モニターの方に毎日、何をどう調理して食べたのかを記録してもらい、そのデータを分析します。「食MAP」のスタートが1998年なので、もう20年以上にわたりデータを蓄積・活用しています。

例えば、テレビ番組で「豆腐が健康にいい」と放送されると食卓で豆腐料理の出現率が高まるなど、マーケティングのデータとしても使えます。直近のコロナ禍では、朝食の摂食頻度が上がっている事が確認できたり、加工済み食品よりも素材から料理をするようになったりしているという傾向がデータで出てきています。

データは外部に提供していますし、私たち自身も商品開発に生かしています。

   
「DNP段差レーザーカットパウチ」は、フィルムの表面にレーザーを照射することで開封口に段差が付き、指でつまみやすく、開けやすくしている
 
 
 
 

パッケージのアイデア1つで調理が楽しい体験に

― これまで紹介いただいたイノベーションは、生活者の顕在化した困り事を解決するものが多いように思います。DNPからパッケージを通して生活者に新しい食のスタイルを提案することもあるのでしょうか。

吉川 「こういうことができたらいいね」という声は、さまざまなところから挙がってきます。生活者が発する場合もあれば、食品メーカーや流通などのサプライチェーン、そして私たちからの場合もあります。いずれにしても新しいものを開発して製品化するまでは時間がかかるので、世に出る頃にはある程度、皆さん共通の困り事として認識されているものが多いかもしれません。

例えば、タブレット菓子はプラスチック容器に入っている製品が多いと思いますが、最近は袋に入ったものも増えてきました。これには、パウチにチャックが付いてリクローズ(再封)できるようになっていて、頭の部分には穴が開いています。この穴は店舗の棚のフックに掛けるためのもの。このように、コンビニで売り場を効率的に使えるようにするため、フックに引っ掛けられるパッケージが増えています。

― 提案者は問いませんが、生活者に新しい食のスタイルを提案したパッケージがあれば教えてください。

高森 電子レンジ関連以外でいえば、「DNPかんたん調理包材」ですね。具体例でいうと、ホットケーキミックス用のパウチがあります。通常、ホットケーキミックスはボウルに入れて卵や牛乳と混ぜ合わせます。一方、この商品はパウチの上部にチャックが付いており、そこから卵と牛乳を入れてチャックを締め、パウチを揉むことで生地を混ぜ合わせる。そして側面に付いている注ぎ口から、生地をそのままフライパンに注ぎ入れることができます。パウチが粉を運んだり保存したりするだけでなく、調理器具の機能も果たしているのです。これは我が社のアイデア会議でも出ていたところに、ちょうど食品メーカーから「こういうものをやりたい」という話があって実現しました。

うちの娘にこれでホットケーキを作らせたら、朝ご飯を用意してくれるようになりました。どうやら、モミモミするのが楽しいようです。ボウルなどの洗いものが減るので、私としてもとても嬉しいです。さらに一食分の使い切りパックなので、粉が余って保存に困ることもありません。衛生的にもいいですね。吉川モミモミして作るのは、お子さんにとってきっと思い出深い経験になるはずです。私たちの直接のお客様は食品メーカーであり、間に流通が入ることを考えると「BtoBtoBtoC」です。生活者と直接触れ合う機会は少ないですが、だからこそ、ユーザーエクスペリエンスを意識する必要があると考えています。

 
 
 
 

環境問題への対応は避けて通れないテーマ

― 食のスタイルとして現在注目しているのは「楽しい体験」「手間いらず」といったテーマですか。

吉川 生活シーンや家族構成が変わると、求められるパッケージのサイズや形状も変わります。例えば核家族化の進行や単身世帯の増加で、包装は個食に対応したものが増えてきました。この傾向は約10年以上前から続いています。また、高齢化もはっきり見えていて、先ほど紹介した開けやすい袋のように、インクルーシブデザインの概念を取り入れたパッケージの開発は、重要なテーマの一つになっていくと思います。

あとは環境問題ですね。食品パッケージはゴミになるのに、プラスチック製でいいのか。サステナブルな材料でパッケージを作るべきではないか、という議論は当然出ています。また、食品ロス問題も忘れてはいけません。従来は食品を長期保存できるようにすれば食品ロスに貢献できるという考え方が主流でしたが、個食対応の包装にすれば、そもそもムダになるほど食品を買わなくなるとも考えられます。

環境問題は、避けて通れない社会課題です。ただし、世の中からパッケージをなくすことは難しいと皆さんも感じていると思います。環境問題を解決しつつも機能性を維持することは重要で、そこが私たちの一番の解決すべき課題ではないかと考えています。

― 環境問題を解決するパッケージとは、具体的にどのようなものでしょうか。

吉川 私たち包装事業部では、「環境にいいことしかやらない」という方針のもと、「便利だからゴミが増えても仕方がない」という考え方とは決別して、常に環境問題を視野に入れた開発を行ってきました。そして、自社の環境に配慮したパッケージを「DNP環境配慮パッケージングGREEN PACKAGING」と名付け、環境に対する考え方や解決策となる製品・サービスについて提案してきました。

具体例でいうと、石油由来のものではなく、植物由来のプラスチックを使用した「DNP植物由来包材バイオマテック」という製品があります。一般のプラスチックは、石油からエチレンが分離精製され、そのエチレンを用いてポリエチレンの樹脂などが合成されます。しかし、エチレンはサトウキビの搾りかすから抽出したエタノールから作ることもできます。植物由来で作ったプラスチックを燃やすとCO2が排出されますが、植物は育つときにCO2を吸収するので、ライフサイクル全体でのCO2の排出量と吸収量が等しくなるというカーボンニュートラルという考え方が成り立ちます。

これら植物由来のプラスチックを使った製品は、エコマークやバイオマーク、あるいはメーカー等が独自に設けたマークなどを付け、生活者が識別できるようにしている物も増えてきています。それを見て「環境にいいから」と、その食品を選ぶ生活者が増えればいいなと思っています。

環境省も、バイオマスプラスチックの普及に積極的です。今年からレジ袋が有料化されましたが、バイオマスプラスチックのレジ袋なら事業者は無料で配っていいことになっています。生活者はそれを活用することで得をして、社会貢献にもなる。そういうところから生活者の意識も変わっていくのではないでしょうか。

   
「DNP環境配慮パッケージングGREENPACKAGING」の一部。植物由来のバイオマスプラスチックを材料に用いたものなどがある

― 現在、リサイクル技術はどこまで進んでいますか。

吉川 ペットボトルはすでにリサイクルされていますが、残念ながら再びペットボトルになる比率は少なく、ほとんどは靴下やユニフォーム、ベンチなどに再利用されています。廃棄したペットボトルから、より簡単に次のペットボトルを作れるように、今後いっそうの技術発展が必要です。

さらに難しいのはプラスチックのパウチですね。食品等のパウチは複数のフィルムを貼り合わせて製造しています。複数の素材を用いると、リサイクルのため粉砕しても素材が混ざってしまい、溶かしても元に戻らないのです。

そこで開発中なのが「DNPモノマテリアル(単一素材)包材」です。同じ素材を原料とした機能の異なるフィルムでパウチを作れば、使用後に粉砕しても単一の素材なのでリサイクルしやすくなります。さらに、フィルムの素材を1種類にしても、物性が従来品と同等であるのがモノマテリアル包材の特長です。最近ではポリプロピレンのモノマテリアル包材の製品が「2020日本パッケージングコンテスト」で、経済産業省技術環境局長賞を受賞しています。

― 食品ロス問題には、パッケージでどのように貢献できるのでしょうか。

高森 従来取り組んできたロングライフ化や個食化のほかに、現在、スマートパッケージの開発も進めています。家庭で捨てられる食品ゴミの多さが食品ロスの一因ですが、例えば、パッケージに情報を持たせ、スマート冷蔵庫と組み合わせて賞味期限がわかるようにする。そうすれば、しまったまま忘れて賞味期限を過ぎてしまうことを防げるでしょう。

またスマートパッケージは、流通段階でも食品ロス問題に貢献できます。メーカーは、小売りや飲食店の在庫がどれくらい残っているのかわからないので、欠品に備えて多めに生産することがあります。スマートパッケージで在庫の状況がわかれば、無駄に生産して廃棄する量も減るでしょう。

すでに加工食品などのパッケージにはJANコードというバーコードが印刷されています。「モノの管理にJANコードが必要だ」という流通の要望で印刷するようになりました。将来は、同じように食品にQRコード、ICタグなどの個体識別情報が付与されて、流通や店頭、家庭の冷蔵庫などの各プロセスで食品ロスの削減に貢献するでしょう。

― スマートパッケージは、どこまで進んでいるのでしょうか。

吉川 技術的にはすでに可能です。ただし、ICタグにはコストの問題があって、JANコードのように利用するには、技術的なブレークスルーが必要でしょう。

一方、5年後、10年後には流通形態が変化していて、そもそも今イメージしているようなスマートパッケージのあり方ではなくなっている可能性もあります。先ほどECの普及でラベルを付けないペットボトルが登場したという話をしましたが、メーカーが生活者に直接ものを届けるようになる流通形態が増えれば、同じようにパッケージの役割も変わっていくはず。そのときパッケージに個体識別情報を付けるという方法だけでなく、充填機で内容物を詰めるときにデータを付与する等、ICタグのコストダウンに期待するだけでなく、バリューチェーン全体でスマート化を考え、食品ロス問題の解決につなげたいところです。

 
 
 
 

若者の「ワンハンド」需要に容器はどのように応えるか

― 若者の食のスタイルのトレンドと、それに対応したパッケージ技術があれば教えてください。

高森 最近、若い世代の間で、ポテトチップスを箸で食べるスタイルが広がっています。袋を大きく開けて皿のようにして、片手でスマホを持ち、もう片方の手で箸を使ってポテトチップスをつまむのです。汚れた手でスマホを操作したくなくて、そのような食べ方をするそうです。

そういった生活スタイルの変化に合わせて、傾けると細長い開口部からスナック菓子が少しずつ出てくるパウチを開発しました。また、チャック付きの開口部を片手で挟んで、グリップを利かせて横にずらせば開くパウチも作りました。どちらもキーワードは「ワンハンド」ですね。

   
本インタビューは、3名の方にご協力をいただいた。右から、高森寛子さん、吉川正浩さん、包装事業部マーケティング戦略本部事業開発部マーケティング推進グループの森さや香さん

― 便利さや使いやすさを追求すると、おいしさや保存性などとバッティングすることもあるかと思います。その場合は何を優先するのでしょうか。

吉川 便利さや味のほかにも先ほどお話しした環境負荷の軽減などの社会課題があって、それらのどこにチューニングしていくのかは、確かに難しい問題です。ただ、何かを優先するから別の何かを諦めるということではなく、私たちは常に長期的なスパンで考えています。SDGsは「誰一人取り残さないこと」を理念として掲げていますが、DNPもパッケージ分野で何一つ諦めない開発を続けていくつもりです。

   
スマホ世代の“ワンハンド需要”にも応えられる、片手で開封できるチャック付きパッケージ