人をつなげるフードトラック

2020年12月25日 15:48 Vol.74
   
森口 拓也
(株)Mellow 共同代表
Takuya Moriguchi
2013年、早稲田大学在学中にALTRTHINK(株)を創業。データ分析を駆使し100万人以上が使うチャットアプリを複数開発後、上場企業へ売却。企業のデータ分析基盤構築など多くのプロジェクトに携わったのち、(株)Mellowの創業に参画。18年より現職。ビジネス・テクノロジー・クリエイティブ・オペレーション、すべての 文脈でショップ・モビリティ市場を成長させるため奮闘している。

昨今、外食産業が大きな痛手を受ける中、小回りの効く“出かける店スタイル”のフードトラックが注目を高めている。そして食を中心としながらも、他分野のショップ展開から社会課題の解決に至るまで、徐々にその活動領域を広げているようだ。ここではフードトラックを活用したベンチャー企業(株)Mellow共同代表の森口拓也氏にインタビュー。見えてきたのは、生活者のニーズに応えた街づくりまでにも対応可能なモビリティビジネスの新たな可能性だった。

「いいね!」からのスタート

― 学生時代から起業し、IT業界で活躍されてきた森口さんが、なぜ食の世界に参入しようと考えたのでしょうか。フードトラック事業を始めるきっかけを教えてください。

森口 始まりはいたってシンプルなことでした。IT企業で働いている仲間が、オフィス街に集まっているフードトラックを見かけて「面白そうだよね」「なんかいいよね」と思ったことがきっかけでした。昼時なので、行列ができているけれど、並んでいる人たちの表情がどこか楽しげで、ワクワクしている感じがしたそうです。6~7年前のことなので、都心でもフードトラックはそこまで浸透していませんでした。実際、リサーチをしてみると参入プレーヤーの数は少なく、これから成長できる伸びしろがある事業だと感じたのです。とはいえ、IT畑の僕たちが「フードトラックっていいよね」と話しているだけでは前に進まない。そこで、仲間を探しているときに出会ったのが、現在の共同代表である石澤(正芳)でした。彼は15年以上にわたって屋外での飲食展開やフードトラックに関わってきたスペシャリスト。コンタクトを取り、会ってみるとすぐに意気投合し、一緒に事業を始めようということになりました。

― 「いいね」を形にしようという動機はシンプルですが、とても大切なことですよね。ちなみに森口さん自身が、フードトラックに対して、いいね、面白いなと感じた体験はありますか。

森口 僕も創業メンバーの一員ではあるのですが、実は誘われて参加したのが実情で……。会社を立ち上げるまで、フードトラックのヘビーユーザーだったわけではなく、ランチはほぼコンビニ弁当でしたね。

起業の原点である「いいね」は、前任の代表である柏谷がフードトラックで食べたパエリアに衝撃を受けてほれ込んだことです。彼は実際にフードトラックに乗って修行までした人間なんです。そこで仕組みや、メリット・デメリットを体感したからこそ可能性も見えていたんだと思います。彼のフードトラック事業への熱意を僕らも感じとり、実際に営業場所に行って料理を食べたり、並んでいるお客さんの観察をしたりする中で「面白そう」と感じました。

信頼している創業メンバーたちがフードトラックのことが大好きだったので、彼らから、この事業を広げるためにはITを活用することが必要不可欠だと、誘われてやってみようと思えたんです。人と人とのつながりですね。

携わっていくうちに、フードトラックって日によって出店者が変わるので毎日違うものを食べられるし、目の前で作ってくれる楽しさがあって、面白いなと感じるようになりました。今は食だけでなく、モビリティの可能性を最大限に活用した、楽しく面白い街づくりを目指しています。僕はずっと知的好奇心だけで動いてきた人間なので、面白いからやってみようという本当にシンプルな理由なんです。

 
 
 
 

独自のシステムで事業者をサポート

― 「街づくり」の話は後ほどお伺いしたいのですが、まずは森口さんが携わるITはどんな場面で活用されているのでしょうか。

森口 初めに取り組んだのは、フードトラックを利用するお客様向けに事前予約ができるシステムです。並ばずにスムーズに受け取りができれば、お客様にとっても店側にとっても効率がよく、売り上げも伸びるのではないかと考えたのです。しかし、それほど甘くはありませんでした。車内環境や電源、オペレーションが店ごとに異なるため、フードトラックを経営する人たちすべてが手を挙げて使いたくなるようなシステムをつくるのが難しくて。うまくいくと思っていた仮説はすぐに外れてしまい、視点を変えてみることに。

僕たちがやろうとしていたのは、フードトラックとオフィスビルなどの空きスペースをマッチングするシェアサービスです。そのマッチングやスケジュール管理をシステム化することが優先課題だと考え直したのです。

当初は出店場所の数もトラックの台数も少なかったので、手作業に近い管理でもなんとかなっていたのですが、出店枠と台数が増えれば効率が悪くなります。そこで、オリジナルのシステムを構築してオペレーションの効率化を図りました。現在は全国に300以上の出店場所があり、フードトラックの登録台数も約1,000台になります。曜日ごとに出店者が変わりますから、約300×5の枠があります。さらにイベントなどを加えると、少ない社員数で対応するのは大変ですが、独自のシステムをつくったことで、効率よく管理することができるようになりました。

フードトラックの管理がしっかりとできたことによって、ランチを買いに来るお客様へのサービスの充実につながりました。先ほど、お話しした事前予約システムのあとすぐに開発したのが、現在も提供しているお客様への情報提供を行えるアプリです。アプリを起動すると、自分が今いる場所の近くにどんなフードトラックがいるかがわかるものです。曜日ごとのお店やメニューを発信し、さらにはQRコードでの決済もできるシステムになっています。

― ひと目で情報がわかり便利ですね。これは、どういったシステムになっているのですか。

森口 こういったフードトラックのアプリは何社もリリースしているのですが、他社と大きく違うのは売り上げや配車を管理するシステムと連動していて、GPS機能を使っていないことです。多くのアプリでは、登録しているフードトラック事業者に営業するときにGPSをオンにしてくださいとお願いをするのですが、意外と手間なもの。オンにし忘れれば、そこにフードトラックがいないとアプリ上では表示され、お客さんの数が減ります。すると集客の効果を感じられず、GPSをオンにしなくなり……といったネガティブなスパイラルに陥るわけです。

僕たちは出店場所の管理をしている会社なので「○○ビルでは月曜日に△△のお店が営業している」というのがわかっています。事業者さんに負担をかけることなく、情報を発信できるのです。運営管理のオペレーションをシステム化し、充実させることに重きを置いたことが功を奏し、利用者であるお客様に有益な情報を提供することができるようになりました。それによって収益も上がっていくので、システムのブラッシュアップや場所の拡充にもつながります。僕らも先に利用者へ向けたサービスを考えていましたが、ポジティブなスパイラルをつくるには、フードトラックの充実とそれを支える管理体制が大切なんだと実感しました。

― フードトラックと空きスペースの有効活用として始まったプラットフォームですが、具体的にはどのようなシステムになっているのでしょうか。

森口 簡単に言うと不動産の仲介業者のようなものでしょうか。フードトラックは個人事業主になるので、場所を確保するために「営業スペースを借りたいのですが」と一人でビルのオーナーにかけあっても信用面で難しいところがあります。そこで僕らが営業スペースを確保して、出店者を募ることにしたのです。今、ここのスペースが空いていますが、どうですかと。その際に僕らが持っている情報を出店希望者にしっかりと開示します。場所の基本データだけでなく、過去の最高売り上げや周辺にはどんな飲食店があるのか、料理の価格設定など、なるべく細かい情報を提供しています。応募者の中から審査をするのは不動産と同じですね。

また、営業するには保健所や消防署の許可、賠償責任保険や自動車保険などさまざまな保険への加入も必要です。面倒な書類作成や申請の代行、保険などの管理も行っています。この管理面が事業者にとっては大きなメリットになっているようです。

月額8万円ほどから始められるフードトラックの開業支援パッケージ「フードトラックONE」というサービスもあります。新品のフードトラックのリースと各種保険、営業場所等がセットになっていて、初めての人でも安心して出店できるようサポートも充実しています。

   

― 創業から約5年で急成長を遂げていますが、事業者を増やす上で何か取り組まれたことはあるのでしょうか。

森口 事業者集めに苦労したということは、ほぼありませんでした。営業スペースの確保の話につながりますが、20年ほど前は、路上での営業はグレーゾーンで黙認されている場所もありましたが、道路交通法の改正によりはっきりとNGになりました。移動販売の業界にとっては大打撃で、危機的状況なわけです。路上がダメなら、公園は?と思いますが、許可が複雑で賃料設定も意外と高い。すると私有地しか残っていません。石澤はその頃から、私有地の活用を考えて徐々に仲介業を始めていたんです。起業にあたり、パワーアップしていこうと場所の確保には力を入れていたところでした。フードトラック側からしたら、営業スペースは一番欲しいものなので、こちらが営業をかけなくてもフードトラックの登録台数は確保できていました。むしろ最初は場所の確保のほうが大変だったかもしれません。

 
 
 
 

データの可視化により収益アップにつなげる

― 事業者にとって、なくてはならないサービスということですね。場所の確保や保険等の管理のほかに、登録するメリットは何ですか。

森口 「SHOP STOP管理画面」という独自のシステムで、自身が出店する場所の全事業者を含めた週の平均売り上げ額や食数などの情報が得られることです。事業者にとっては現状、自分がどの立ち位置にいるかを把握できます。データを客観視して改善点を見つけられる人は、売り上げを伸ばしている傾向にあります。僕らからはファクトデータを提供するだけで、具体的なアドバイスを積極的にすることはありません。ただ、差が大きく出てしまうことは好ましい状態ではないので、今後はデータをわかりやすくしたり、事業者さん個々人の課題が見えやすい情報提供をしていけるように改善したいと考えているところです。

― データの可視化は森口さんをはじめIT出身者の企業らしさを感じますね。日頃からさまざまなデータを取り活用されていると思いますが、コロナ前と今ではデータ上でどんな変化がありますか。

森口 正直なところ、データうんぬんではなく、4~5月は純粋に利用者数が激減しました。起業した当時は「ランチ難民解決ベンチャー」として、多数のメディアで取り上げていただきましたが、コロナで在宅勤務が増え、ランチ難民自体がいなくなったので必然的に売り上げも減りました。

モビリティの利点は機動性の高さです。固定店舗であれば、コロナ禍で都心は難しいから郊外に店を出そうと思ってもすぐには実現しません。店舗の確保や設備工事など時間がかかります。しかし、フードトラックなら場所の獲得がうまくいけば、郊外への出店にさっと切り替えることができる。もちろん今までオフィス向けに作っていたメニューなので、郊外の住宅地で売れるかといえば難しい面もあります。すべてが順調に進むわけではないですが、環境や社会の変化によって営業するフィールドを変えられるのがモビリティの強み、メリットということを実感しました。

郊外のタワーマンションや住宅地エリアに合わせた売り方に挑戦できたことで、フードトラックが活躍するフィールドのすそ野が広がりました。

 
 
 
 

飲食店開業の選択肢の1つでありたい

― 外食産業は大きな打撃を受けましたが、フードトラックには追い風が吹いているといったところでしょうか。

森口 残念ながら追い風とまではいかず、選択肢が増えたというところでしょうか。郊外という新たな主戦場を得ることはできた一方、一人ひとりの事業者の売り上げが満足いくまでには達していないのが現状です。オフィス街にも人は戻ってきているものの、今まではランチ難民がいるところを狙えばよかったけれど、人の動きが分散したことで簡単にはいきません。新しい生活様式の中で、固定客をつけ、売り上げを伸ばしていく努力は必要不可欠です。

一事業者あたりの売り上げの向上を支援できればと、アプリからのクーポン配信なども、コロナをきっかけに積極的に活用しています。地道ですが、ビラ配りもしています。今は固定店舗だから、移動販売だからということではなく、外食産業はみな同じラインに立っている気がしますね。やれることはどんなことでもやってみるのが大切なのではないでしょうか。

   
コロナ流行前の「SHOP STOP」の様子。
   

   
Mellowが入居するビルの駐車スペースでは、新規のフードトラックのトライアル営業を実施。この日は、早稲田大学戸山キャンパス前に店を構える早稲田ゴールデン。オンライン授業で街の学生数が激減する中、イベント用のフードトラックを活用、看板の「和風ローストビーフとアボカド丼」を提供中だった。

― この間、廃業してしまった飲食店も多くあります。再出発の道として、フードトラックを選択する人もいるのではと思います。改めてになりますが、固定店舗を構える場合とフードトラックではどのような点が大きく違うのでしょうか。

森口 一番の違いは初期費用と抱えるリスクの大きさですよね。店を構えるとなると家賃だけでなく設備投資もかかりますし、管理費もバカになりません。お金をかけて開業しても、うまくいかなければ原状回復をして店を出なければならない。始めるのにも辞めるのにもお金がかかります。一方、フードトラックは初期費用も、辞めるときのコストもグッと抑えられます。個人で飲食店にチャレンジしたいと考えている人にとっては、トライしやすいとは思います。ただ、どちらもスタートすれば、ファンを獲得するための努力は同じように必要です。むしろ営業日やメニュー数が限られているフードトラックのほうが、その努力はより必要になってくるかもしれません。

これまで、「フードトラックって、店舗を構えられない人が仕方なくやっているんでしょ」という固定概念がありました。それは最近、少しずつ変わってきているように感じます。「2店舗目を出すならフードトラックで」という方もいらっしゃいます。コロナによって、さらにその考えが広まっているようにも思いますが、まだまだ下に見られてしまう傾向にある。飲食業界においてフラットな選択肢の1つにフードトラックが入るよう地位向上に努めていきたいと考えています。

 
 
 
 

地方自治体との連携で新たな可能性が

― 冒頭に街づくりのお話をされていました。コロナの影響もあり、都心から郊外への出店が増えています。最近では地方自治体と連携してモビリティの可能性を広げていますね。

森口 そうですね。食だけでなくモビリティビジネスが地域の活性化に役立てばという思いがあり、行政との連携を始めました。東京の世田谷区では区の保有地を利用してフードトラックや花屋、鮮魚販売を行っています。大阪府の堺市では買い物難民が多い住宅エリアにフードトラックを出店しました。神戸市では助成金でフードトラックのレンタルができるようになっています。収益を目的としているというよりは、住民サービスの一環と捉えています。その地域に住んでいる人たちがハッピーになったらいいな、そうしたらその地域に住みたいと思う人が増えるだろう、その先には税収の増加が考えられるかも……と先を見据えた事業です。

最近では山口県との協働で「走るアンテナショップ」も始動しました。山口県の特産品を活用したランチなどを都市部で販売する予定です。

都市型や郊外型、観光地での事例は増えてきましたが、過疎地でどう活用できるのかはまだまだ模索中です。他社でも移動スーパーや見守り隊など、さまざまな取り組みが始まっているので、4~5年の中期的戦略として過疎地でのモビリティビジネスを考えていきたいと思います。

街づくりに関していえば、新しいビルが建ってもテナントはチェーン店ばかりという状況が続いていて、どこも似たような街になっていてつまらないと感じています。家賃や初期費用を考えると資本体力がある、ハイブランドや大企業ばかりになるのは仕方がない面もあります。そんな中で、モビリティを活用して街を楽しくする会社にMellowがなっていければいいな、というのがモチベーションになっています。

   
山口県との協働の「走るアンテナショップ」では、県の特産品を活用したランチの販売、特産品の紹介を大都市圏で行う

― 具体的に、考えていることはありますか。

森口 これまでフードトラックとランチをかけて「TLUNCH(トランチ)」としてサービスを提供してきましたが、今年の6月から「SHOP STOP」として、ブランドをアップデートしました。BUSSTOPにちなんでお店が集まる停留所を作りたいという思いで名付けました。食に限定せず、フレグランスや花など、ECサイトでは購入しにくいもの、対面だからこその価値を見いだせるサービスにトライしています。地方自治体との連携もその1つです。

先ほども話題に出たように、人口が減り過疎地が増えました。しかし数は減っているけれど、趣味趣向の多様化が進み消費者のニーズは細分化しています。個人がメディアを持つ時代になっていますし、そこからトレンドが生まれることも多い。その多様化にいち早く対応できているのが、インターネットです。街にお店を出そうとしたらたくさんのプロセスを経なければいけませんし、家賃、内装費、補償金……とコストもかさみます。好立地だとしてもお客さんが来るとは限りません。時間もコストもかかるのであれば、消費者のニーズに瞬時に対応できるECサイトを立ち上げたほうがお得なわけです。今はさらに進んで、メルカリのように個人対個人のマッチングが普通に行われている。お店を出すリスクを背負わずに、個々のニーズに応えることができるんです。

ひと昔前は公園でフリーマーケットが盛り上がっていたけれど、今はインターネット上でそれが簡単にできてしまう。ただ、便利だけれど、失われてしまったこともある。対面で値段交渉をするやりとりという体験はなくなってしまいましたよね。飲食においてもお取り寄せが手軽にできる一方で、その土地で作りたてを食べる体験はできません。

デリバリーが急増して手軽に食べたいものが自宅に届くようにはなりましたが、作り手の顔や調理というパフォーマンスを見られるといった体験はできません。フードトラックにはその体験という付加価値があるところが魅力の1つだと考えていますし、差別化にもつながっています。

リアルの世界で行われてきたことは、コストをかけずにほぼインターネット上でできるようになったけれど、それが街というハードウエアをつまらなくしている原因でもある、というジレンマがあります。そこで、僕らがやっているモビリティビジネスで、郊外の遊休地を使って多様化したニーズに応える商売やサービスができたら面白いなと考えています。ECサイトと固定店舗の中間を担っているのが僕らの仕事。これからの街づくりで最適な配車を基盤とするマッチングサービスを生かしていけたら嬉しいですね。インターネットばかりが面白くなっていてはつまらない。まだリアルな世界にもすき間があるはず。そこを狙っていきたいです。

 
 
 
 

成長戦略の延長線上に社会貢献がある

― 自治体との連携で社会貢献もされていますが、コロナ禍の中、医療従事者に対する食事支援を行っていました。どういったきっかけで行われたのでしょう。

森口 困っている方たちに温かい食事を届けたいと昨年の9月に「フードトラック駆けつけ隊」を発足しました。結成直後に、千葉県南部を大型台風が襲い、大規模停電が起こりました。その際に現地にフードトラックを派遣し、食事を無償提供しています。コロナ禍の医療支援はトヨタグループをはじめとした協賛企業の支援のもと、食事提供をさせていただきました。僕らだけでは、実現できなかったことです。

社会貢献というととても大げさなことに聞こえますが、日頃の活動の中に組み込まれているのが自然な形ではないでしょうか。僕らでいえば、地方自治体連携で公共空間を収益化する取り組みをすることで得た収益の一部をプールし、有事の際に無償支援を行うことができます。寄付をすべき、しなくてはという固定概念ではなく、企業の成長戦略の一部であることで持続可能にもなると考えています。

郊外への出店も収益を上げることが目的ではありますが、フードトラックがいることで、その地域が盛り上がれば社会課題の解決にもつながるのではないでしょうか。

公共施設の利活用など挑戦するフィールドが増えれば増えるほど、ビジネスにも広がりが見えてきます。どちらか1つに力を入れるのではなく、両輪をしっかりと動かすことが大切だと考えています。

   
2019年9月に千葉県南部を襲った台風15号により、大規模停電が起こった。「フードトラック駆けつけ隊」は市原市、館山市、南房総市、山武市で食事の無償提供を行った
   

― 最後に、Mellowとして、森口さん個人として今後のビジョンをお聞かせください。

森口 どのインタビューでも答えているのですが、僕自身のビジョンは特にありません。冒頭でもお話しましたが、「面白い」から動いているんですよね。面白いと感じないことに行動は伴いませんから。会社としても、1つのビジョンが必要なのかと疑問に思っているところです。今のところビジョンはないけれど「人を元気にする会社」という大切なポリシーはあるんですよ。

資本主義経済の中で、純粋に頑張りすぎるとどうしてもひずみが生まれてしまうと思うんです。ここ数年は見直されてきていますが、がむしゃらに頑張ることがまだまだ美徳のように感じます。ベンチャー企業として何を会社の中心に置くかといったら、誰かが病むような戦略ではなく、人が元気でいられることを恒常的にやることが大切だと思っています。とはいえ、やはりコロナの影響で僕らも打撃を受けましたので、ここ数カ月はつい数字のことばかり言ってしまいましたけど(笑)。それが永久的に続くのは怖いので「人を元気にする会社」を忘れずに掲げていきたいと思います。

会社組織としても「愛・信頼・自立」をポリシーとしています。プロセスに対するこだわりはあるけれど、全員が同じ方向を向く必要はないし、ゴールに対しての価値観が違ってもいい。「モビリティって面白いよね」と思って活動している人もいれば、建物を建てる以外の街づくりを考えて活動している人もいます。社員一人ひとりは自立していることが望ましいし、1つのゴールに向かって選択肢はたくさんあっていいのです。

コロナをきっかけとしてですが、リモートワークを多くの人が経験し、いろいろな気づきがあったと思います。インターネットによる効率化、対面で仕事をする価値……。その価値が幾らになるかはわかりませんが、それぞれに良さがありますから。ネットで買うのもいいけど、お店で買うのも楽しいよね、と思えるようになった。そして、どちらのフィールドでも大切なのは、リピートしたいと消費者に思わせる努力が必要ということです。

フードトラックも着実に増えていますが、増えたからこその新たな課題も見えてきます。外食産業はまだまだ厳しい時代。どうしても営業場所によって売り上げの差も出てきています。誰だって実績のある場所に出店したいと考えるので希望が集中してしまうこともあります。そんなときは、数年の経験ではありますが、僕らの視点からあの場所にはこの事業者がマッチするのではないかと、直接連絡を差し上げて出店をお願いすることもあります。システム化しているからといって機械的に振り分けているのではなく、そこではコミュニケーションを大切にしています。また、売れている場所で続けるだけでは広がりがありません。誰かがチャレンジをしないと商圏は拡大していかないものです。先人が開拓したところでずっとやっていてもダメなんですよね。事業者さんのチャレンジを後押しできる企業であり続けたいと思います。