マーケティングで広がる福祉の可能性

2025年6月26日 11:00 Vol.93
   
山内 雅喜
公益財団法人ヤマト福祉財団理事長
Masaki Yamauchi
1961年生まれ。84年ヤマト運輸株式会社入社。85年にクール宅急便開発プロジェクトに参加したほか、93年にはプロジェクトリーダーとして新人事制度改定に従事。95年にはグループ企業理念である「経営理念」の制定にも携わる。2011年同社代表取締役社長、15年ヤマトホールディングス株式会社代表取締役社長を経て、19年同社取締役会長および公益財団法人ヤマト福祉財団理事長を兼任。23年より同社参与、現在に至る。趣味はテニス、ゴルフ、孫に遊んでもらうこと。

イノベーションの原動力として注目を集めるダイバーシティ。人手不足や働き方の変化への対応という意味からも、障がい者を含め適性の異なる人々が自分を活かせる多様性社会の実現が望まれている。障がい者の法定雇用率達成に苦心する企業が少なくない中、30年以上前から経済活動につなげる形で障がい者の社会参加と自立を支援してきた財団がある。従来の福祉の常識を超えた創業者の志と、広範な活動内容についてお話をうかがった。
text: Masashi Kubota photo: Masahiro Heguri

 
 
 
 

福祉の世界にこそ「経営力」を

— 故小倉昌男氏が障がい者の自立と社会参加の支援を目的にヤマト福祉財団を創設したのは、1993年9月のことでした。当初の周囲の反応はどのようなものでしたか。

山内 当時のヤマト運輸社内では、みんな驚いていました。ヤマトという運輸会社が福祉に取り組むというよりは、当時の会長である小倉昌男が、社業とは別に自らの思いで始めたことだと思われていたように感じます。

社外では「なぜ宅急便の生みの親が福祉をやろうとしているのか?」という疑問とともに、小倉がそのために自らの財産であるヤマト運輸の株式の大半を財団に寄付したことが驚かれ、注目を浴びました。

小倉昌男はクリスチャンです。福祉財団設立の理由を問われると、「何か特別な出来事があったわけじゃないんです。何かしてあげたいという、ごくごく一般的な動機なんです」と答えていました。

— 現在のヤマトグループにおける障がい者福祉関連団体の構成はどういった形でしょうか。

山内 大きく分けて、財団本体と株式会社スワン、社会福祉法人ヤマト自立センターの3つがあります。

スワンは1998年に設立されたヤマトホールディングスの特例子会社で、障がい者雇用の場をつくり、自立と社会参加を応援する会社です。「アンデルセン」「リトルマーメイド」を展開するタカキベーカリーの協力の下、現在では直営店5店、フランチャイズ店20店となり、障がい者と健常者がともに活躍できる場として、300人以上の障がい者が働いています。

ヤマト自立センターは2006年に事業を開始しました。障がいのある方が自立した生活を送ることができるよう、業務の訓練を行う施設です。「スワン工舎新座」「スワン工舎羽田」の2つの施設があり、最長で2年間、社会に出るためのトレーニングを実施しています。

ヤマト自立センターからの主な就職先としては、スワン、ヤマト運輸などヤマトグループへの就労に加え、埼玉県庁や理化学研究所といった公的機関から、エービーシー・マート、ヤオコー、ユニクロ、山崎製パンといった民間企業まで多岐にわたります。

   
ヤマト運輸本社ビル1階にある、スワン銀座店ベーカリー
   
定番商品に加え、季節のパンも並ぶ。パンは店内の広々とした調理スペースで、丁寧につくられる

— ヤマト福祉財団は助成事業、育成事業など、幅広い活動をされていますね。

山内 財団の活動の柱は助成事業、パワーアップフォーラム、育成プロジェクト、顕彰事業の4つです。

第1の助成事業では、「障がい者給料増額支援助成金」の名の下、障がいのある方の工賃(給料)のアップを目指す事業に対して助成を行っています。

例えば、障がい者がクッキーの製造・販売をして働く施設で、クッキーを焼く機械を購入する計画があり、それにより生産性が高まって障がいのある方の給料が上がると判断すれば、そこに助成金を出します。

単に「お金が足りないから援助してほしい」というだけでは対象にならず、事業収入が増加し工賃アップにつながる事業に対して助成する点に特徴があります。

1件あたり500万円までという制限がありますが、年に150件ほどの応募があり、審査を経て年間30~40件の助成を行い、総額は1億円を超えます。その他にも「障がい者福祉助成金」として、ボランティア活動、調査研究活動など幅広く助成を行っています。

助成におけるもう1つの取り組みが、奨学金です。障がいの種別を問わず、大学進学を支援するための奨学金を月5万円、毎年約40人にお届けしています。

返済不要で、一般学部であれば4年間、医学部などでは6年間給付します。障がいのある方は一般の大学生と違ってアルバイトをすることが難しく、生活費に困ることもありますから、国からの助成では足りない部分を支援しています。

— 設立3年後の1996年より、障がい者施設向けの無料経営セミナーを開始されています。

山内 財団の活動の第2の柱が、「障がい者の働く場パワーアップフォーラム」です。これは障がい者を支援する人たちに、経営と事業について学んでいただく研修事業です。

1995年の阪神・淡路大震災で、多くの障がい者施設が被災しました。小倉はそうした施設を訪問した際、作業所で障がいのある人が1カ月働いても、もらう給料が1万円にも届いていないと知り、愕然とします。

「1カ月働いて給料が1万円もいかないなんて、そんなことがあってはいけない。人がちゃんと働いているのだから、もっともらえるようにしなければ」と小倉は考えました。

障がい者のための施設では、支援したいという気持ちは強くても、施設の運営や収支の管理といった経営面には弱さがありました。また、運営者の中には「お金儲けは汚いこと」という考えを持つ人も多く、障がい者が何か製品をつくって販売するにも、収益にはこだわらない人が多かった、と聞いています。

小倉は、福祉に関しては素人でも、経営のプロ。「障がい者の働く施設では、利益の出る仕組みづくりが弱い。どうすれば商品の付加価値を高めて、より高い値段で売れるようになるのかといった、経営の基本を学んでもらおう」と、自らが講師となってセミナーを始めたのです。

プログラムを続けていくうちに経営について福祉関係者の理解も進み、現在では年に2~3回、東京、大阪などで障がい者施設の職員向けの「パワーアップフォーラム」として開催しています。このフォーラムでは、過去のヤマト福祉財団小倉昌男賞受賞者や、実際に職場改善や工賃アップを実現した実践者の方たちが講師となって、成功事例を共有していく形に発展しています。

— 30年前から既に「障がい者の自立」に活動の焦点を当てていたことに驚きを感じます。低賃金労働からの脱却を目指された小倉氏の呼びかけは、当時としては画期的な発想ではないかと思いますが、反応はいかがでしたか。

山内 当初は大変だったと聞いています。小倉は障がい者支援の関係者を集めて、「1カ月働いて給料が1万円って、おかしいでしょう。それで本当にいいと思っているんですか」と、はっきり言ってしまうんです。そうなると「何も知らない素人が何を言っているんだ」という反発も出てきます。

しかし「障がいのある人が社会に出て幸せに暮らすためには、生活費をしっかり稼げなくてはいけない。自立して生活できるようになれば、自分のやりたいことができるようになる。そのためにはちゃんと給料をもらえるようにしなくてはならず、それには運営する人に経営力がなければだめだ」というのが、小倉の信念でした。前向きな施設関係者たちは小倉の考えに同意し、真剣に経営を勉強するようになっていったのです。

   
東京で開催された、パワーアップフォーラムの様子
   
福祉施設関係者、働く本人、家族ほか、障がい者の働く場づくりに関心のある人が対象となり、幅広い参加者が集う
 
 
 
 

高付加価値商品で常識を変える

— 障がい者が働くスワンベーカリーの商品やサービスは、競争力が確保されていると感じます。どのような工夫でそれを実現したのでしょうか。

山内 小倉は障がい者の給料を上げるには、高付加価値の商品をつくる必要があると考え、何をつくるべきか模索する中で、「パンがいいのではないか」と考えます。小倉との対談をきっかけに、広島県のタカキベーカリーの高木誠一社長(当時)がその考えに共感し、協力を申し出てくれました。

タカキベーカリーは焼きたてパンを販売するベーカリーチェーンです。タカキベーカリーが製造した冷凍生地を各店舗に送り、それを店で成形して焼けば、焼きたてパンがつくれます。ヤマト運輸にはクール宅急便のシステムがあるので、冷蔵でも冷凍でも送ることができました。

両者が組んで事業として組み立てれば、障がいのある方でも、ほかにはない高付加価値の商品がつくれる。小倉は自らタカキベーカリーの研修センターでパンを焼き、手応えを得て、タカキベーカリーの協力の下、スワンベーカリーの事業を始めます。

1998年6月、スワンベーカリーの1号店が銀座のヤマト運輸本社ビル1階にオープンすると、すぐに人気となり、各地への出店が始まりました。

— この事業の狙いはどこにあったのですか。

山内 障がい者支援に関わる人たちはそれまで、「健常者のようにうまくはできない。製品の値段が安くてもしかたがない」と思い込んでいました。小倉昌男が取り組んだのは、そうしたこれまでの意識、常識を変えることです。障がい者であっても工夫次第で付加価値の高い商品をつくれるし、それによってきちんと給料を払えることを、小倉はスワンベーカリーで実証してみせたのです。

— 財団では、成功している福祉事業者から学ぶ「実践塾」の取り組みも行われています。

山内 財団の活動の第3の柱が、育成プロジェクトです。そこでは先行して「しっかりと給料を払える障がい者施設・作業所」を実現したみなさんから、実践を通じて学ぶことを目的に、モノづくりや農業、働きやすい職場づくりなど、いくつものプロジェクトを実施してきました。小倉昌男賞の受賞者が指導役となる「実践塾」では、これまで5つの塾で300人以上が学び、そこで学んだ塾生が関わる施設では、入塾前に比べ、施設の平均給料が約50%も増えています。実践塾には施設の職員に参加していただき、実際の作業を見たり体験したりしながら、「どういう作業が障がい者に向いているのか」「作業中に気を付けるべきことは何か」といったことを学んでもらいます。障がいのある人が「どこで活躍できるか」を考え、実際のビジネスに結びつけていく点が、一般的な助成と大きく違うところです。

— 活躍できる場は、どのように生み出していくのでしょうか。

山内 人により向いている仕事、向いていない仕事があるのは、健常者も障がい者も同じです。

健常者とまったく同じ仕事を障がい者が1人で肩代わりすることは難しくても、作業を切り分けていくと「この領域は特に力を発揮できるだろう」という仕事はたくさんあります。そのような仕事を切り出し、再構築することで、活躍できる場を創り出すことができるのです。

— 4番目の柱、顕彰事業についてはどうでしょうか。

山内 推薦により候補者を集め、「ヤマト福祉財団小倉昌男賞」として、毎年2人の表彰を行っています。障がい者に働く喜びと生きがいをもたらしてくれた方たちに賞を受けていただくもので、これまでに25回行われており、福祉の世界では知られる賞になってきました。

顕彰事業では、受賞した方の取り組みが世の中に広がっていくことが大切だと考えています。そのために受賞者に実践塾の塾長として先生役を務めていただいたり、パワーアップフォーラムの講師をお願いしたりといった形で、取り組みの展開を進めています。

昨年「第25回ヤマト福祉財団小倉昌男賞」を受賞された福岡県にある株式会社カムラックの代表取締役賀村研さんは、ホームページのデザインやプログラミングなど、ITを活用した仕事で、障がい者の就労支援やスキルアップにつなげます。これまで「障がい者にはできない」と決めつけられていた分野で、どうやって雇用の場を創出したのか。受賞者の創意工夫を共有し、ぜひほかの地域でも広めてほしいと願っています。

   
農業を事業とする施設の責任者を対象に、利用者の工賃・給料アップを目的とする実践塾「農福連携実践塾」の様子
   

 
 
 
 

ヤマトグループとのシナジー

— ヤマトグループとは、連携されておられますか。

山内 ヤマト福祉財団の運用資金の約半分は、小倉昌男が寄付した株式からの配当ですが、実はヤマト運輸労働組合が実施している夏のカンパからの寄付金も主要な財源となっています。金額は毎年、7000万円前後。ヤマトグループは組合員だけでも約9万人おり、一人ひとりの支援が集まると大きな金額になるんです。これに加え、財団には賛助会員制度もあって、ヤマトグループの社員を中心に会員になっていただき、年会費1000円をいただいています。こちらも年間で7000万円ほどの支援につながっています。

ヤマト福祉財団が活動していく上でもう1つ大きな支えとなっているのが、ヤマトグループの人的ネットワークです。財団が全国の障がい者施設とやりとりする上では、ケアやフォローに人手が必要になります。そこで、ヤマト運輸の協力により、各地域で財団の「事務長」を選任していただき、助成金の贈呈式を行う際などに人を動員してもらっていますし、農業ボランティアについても、各地のヤマト運輸労働組合との連携で人の参加を促したり、声かけを行ったりといった支援を受けて実施しています。ヤマトグループだからこそのリアルな全国ネットワークが、ヤマト福祉財団の活動を支えています。

—「福祉は会長個人の事業で会社とは関係ない」という当初の社員の受け取め方は、その後に変わっていったのでしょうか。

山内 実際に福祉事業が始まってみると、「ヤマト運輸の宅配事業は地域の人々に支えられており、その中には障がいのある人もたくさんいるのだ」ということを、より実感するようになります。

障がい者手帳を持っている人は、実は日本に1000万人以上おられます。人口比で考えると、およそ12人に1人。あまり外に出ないという障がい者の方もいらっしゃるので、日頃から、障がいがある方を意識する機会が少ないのだと思います。

ヤマト運輸では1995年に、今で言う「パーパス」にあたる経営理念と、企業姿勢、社員行動指針の3つを制定しました。

当時、経営理念制定プロジェクトのメンバーだった私は、だいたいの骨子が固まったところで小倉昌男に「この内容でいかがでしょうか」という確認をしに行ったんです。

その際、小倉から、「企業姿勢の中に、『障がいのある方の自立を願い、応援します』という一文を入れたい」という強い要望がありました。これを受け、「地域社会から信頼される企業」という項目に、この一文を追記しました。現在ではブラッシュアップされ、「ヤマトグループは、地域社会から信頼される事業活動を行うとともに、豊かな地域づくりに貢献します。特に、障がいのある方を含む社会的弱者の自立支援を積極的に行い
ます」となりました。

企業姿勢にこの一文が入ったことで、ヤマト運輸という会社の障がい者への支援姿勢が明確になったと思います。

— ヤマト福祉財団ではヤマトグループを代表して災害復興支援事業も実施されていますね。

山内 災害支援について、東日本大震災の際には、ヤマト運輸が宅急便1個につき10円ずつを寄付し、それをヤマト福祉財団が被災地に送る仕組みが生まれ、被災地への寄付金は142億円超にのぼりました。それ以降も2016年の熊本地震や2024年の能登半島地震等で、被災施設への助成を行ってきました。

障がい者の場合、避難情報が入らなかったり1人では逃げられなかったりで、大規模災害における死亡率は健常者の2倍にのぼるといわれ、災害時のケアは大きな課題です。

— 障がい者の法定雇用率が引き上げられ、多くの企業が達成に苦労しています。ヤマト運輸の状況はいかがですか。

山内 ヤマト運輸における障がい者雇用の推進は、福祉財団とは別に同社人事部が担当しています。ヤマト運輸では3000人を超える障がいのある社員が働いており、障がい者雇用率は2024年3月現在で3.1%。現行の基準である2.5%はもちろん、2026年に予定されている目標値2.7%も既に超えています。 

この背景には、前述したような業務の切り分け等の工夫があります。「本人が力を発揮できる場所で、仕事を任せていく。そうしてともに活躍できる場をつくっていく」という考え方が社内に浸透しているのです。

 
 
 
 

企業は世の中を豊かにする存在

— 法定雇用率引き上げをポジティブに活かすことのできない企業は、どう発想を転換すべきでしょうか。

山内 現状では、中小企業は障がい者雇用率達成に苦労しており、ペナルティを避けるための雇用代行ビジネスも出てきています。代行会社が地方に農園を設立し、そこで働きたい障がい者を募集。東京の会社と雇用契約を結ぶことで当該企業の雇用率をアップさせるといった仕組みです。 

法の趣旨に則ってきちんと取り組んでいる代行会社もありますが、中には雇用率を上げることだけが目的になってしまっているケースもあります。農園に来てもらうだけで、実際に作業や仕事は何も任せない。

本来は障がいのある方に社会参画していただくための制度ですから、あるべき姿とはいえないでしょう。

法定雇用率という仕組みは、実はヨーロッパにはないんです。法律で雇用率を定めると、それが義務となり、ゴールになってしまいます。数字を達成して終わりではなく、みんなが幸せに暮らせる社会をつくることが本当の目的のはずです。企業としては、そのことを忘れずに意識するのがよいのではないでしょうか。

— それは小倉昌男氏の理念でもあるのでしょうか。

山内 小倉自身、当時「死病」と怖れられた肺結核を患い、2年間もサナトリウムで療養した経験があり、「自分は生かされているのだ」と感じていたと聞いています。理不尽なことには真っ向から立ち向かう激しさを持ちながらも、人には優しく、「人々が幸せになることが大事だ」と常に考える人でした。

「企業は何のためにあるのか」と考えたとき、「世の中を豊かにして、みんなを幸せにしていくため」といえるでしょう。「世の中」には、多様な人がいて、障がいのある方も当然含まれます。

便利な製品や良いサービスを生み出し、生活を豊かにしていくこと。働く場をつくり、給料によって人々の経済的な基盤をつくること。働くことを通じてやりがいを得たり、仲間と共に達成感を味わったりする場となること。それらを実現するために、企業は存在しているんです。各社がそれぞれにできることをできる限りやっていくことで、誰もがともに幸せになっていける。経営者がみなそういう考えを持てば、世の中は確実に変わっていくでしょう。

— 最近、ダイバーシティ(多様性)の重要性がよくいわれます。

山内 人は、「自分が知らないことを知る」ことを通して、新しい視座を得て、多様性を理解していきます。多様性がなければイノベーションも生まれず、環境の変化に対応する力も弱くなってしまいます。

障がいもまた多様性の1つであり、そこには新たな視座があります。仕事を切り分けることにしても、障がい者のためだけではなく、スポットワークに活用できたり、高齢の方でも仕事に取り組めるようになったり、いろいろな展開が可能です。障がい者雇用を義務ではなく、こうしたメリットをもたらすチャンスと捉えることもできます。

— 障がい者を取り巻く今の日本の状況をどうお考えですか。

山内 新型コロナウイルス感染症が広がった2020年から数年の活動は、非常に苦労しました。人と会ってはいけないということで、障がいのある人に集まっていただいて、達成感を持ってもらうような活動ができなくなってしまったのです。今はその時になくなった活動を再構築している最中で、現場にも活気が出てきています。

2021年には「東京2020パラリンピック競技大会」で多くの競技が地上波で放送され、障がいのあるアスリートが活躍する姿が、一般の方にも届きました。今年の秋には「東京2025デフリンピック」が開催されます。これは4年に1度開催される聴覚障がい者(注:聴覚障がいはパラリンピックの出場資格として認められていない)のための総合スポーツ大会で、招致活動を行って実現したものです。

2016年に障害者差別解消法が施行され、「不当な差別的取扱い」を禁止し、「合理的配慮の提供」が努力義務となりました。

2024年には「合理的配慮の提供」が義務化されています。

企業の意識も高まってきており、全体としていい風が吹いていると感じています。

— 障がい者や福祉施設の存在が特別とみなされることのない社会を目指す上で、次のステップとして何があるでしょうか。

山内 ヤマト運輸には17万人を超える社員がおり、全国に3500以上の拠点があります。この人的ネットワークと連携して啓発活動を行っていこうと計画しています。

例えば今、全国のヤマトの宅急便の営業所に聴覚障がい者向けのコミュニケーションボードを配置してもらう取り組みを進めています。ほかにも手話ができる人を配置したり、視覚障がい者のための点字ブロックを置いたりといった取り組みも進めていきます。これをきっかけにヤマトグループだけでなく、すべての店や施設に同様の取り組みを広めていきたいと考えています。

多様な障がいのある方々と向き合うためのマインドとアクションを「ユニバーサルマナー」と呼びます。これについては株式会社ミライロと協力してつくったヤマトグループ独自の「ユニバーサルマナー検定」があります。ヤマト運輸では現在、役職者全員がこの検定を受け終わり、これからはドライバーなど一般社員も全員が検定を受ける予定になっています。

さまざまな角度からの活動を通じて、まずは人々の意識を変え、どんな人でも自分らしく社会参加できるようになる。そんな社会の実現を、目指しています。

スワンベーカリー

公益財団法人ヤマト福祉財団

   

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