デジタル時代の消費者
テクノロジーとインターネットの普及によって、消費者はこれまでにないほど多くの情報や選択肢にアクセスできるようになった。昔は店頭にある商品から選ぶしかなかったが、今ではオンラインにアクセスすれば、世界中の商品を比較し、価格やレビューを参考にして自分に合ったものを選べる。この変化は、消費者の購買行動やブランドとの関わり方を大きく変えている(1)。
無限に近い選択肢があり、「いつでも・どこでも」買えるようになったことで、ブランドを切り替えるコストは大幅に低下した。その結果、消費者がブランドを乗り換える機会も飛躍的に増加している。実際、従来は1つのお気に入りブランドに一生寄り添う傾向が強かった米国の消費者でさえ、近年はこれまでにない速さでブランドを切り替えている(2)。
さらに、デジタル時代の消費者は、1つのブランドに絞り込むのではなく、複数のお気に入りブランドを持ち、状況や気分に応じて使い分けるようになっている。この現象は「ブランド・プロミスキュイティ(brand promiscuity/複数ブランドを好む傾向)」と呼ばれ、従来型のブランド・ロイヤルティの弱体化を示すものといえる。例えば、K-POPのファンダムにおいては、特定1組のアーティストに限定して熱狂するのではなく、複数のアーティストに強い愛着や支持を寄せる「マルチスタン」と呼ばれる現象が広がりを見せている(3)。
デジタル時代におけるブランド・リレーションシップの変容(4)
このように、デジタル時代の消費者は、かつてに比べて多くのブランドと同時に関わるようになった。シェアリング・エコノミーの拡大もあり、こうしたブランド・リレーションシップの広がりはますます増えている。
もっとも、関係の数が増えることは、すべてが強固なつながりを意味するわけではない。あるブランドには強いアタッチメントやコミットメントを抱く一方で、別のブランドとは「少し気になる」程度の希薄な関係にとどまることもある。すなわち、デジタル時代の消費者は、結びつきの質も強度も異なる多様なブランド・リレーションシップを併せ持っている。
そもそもブランドと消費者の関係は、人間関係と同様に複雑である。強いつながり(例:パートナーや親友)から弱いつながり(例:知人)、ポジティブな関係(例:恋愛)からネガティブな関係(例:敵対)、さらには社会情緒的関係(例:親子)から功利的・機能的関係(例:ビジネス・パートナー)まで、多様な形態が存在する[図表1]。
そしてデジタル化は、ブランド・リレーションシップの質そのものを変容させている。かつての消費者は、限られたブランドと時間をかけて関係を築いていた。しかしデジタル時代においては、複数のブランドと容易に接点を持つことができ、ブランドとのつながりの希少性は低下した。その結果、消費者がブランドに求める関係の深さや継続性も相対的に弱まり、ブランド・リレーションシップのカジュアル化が進んでいる。
従来は、情緒的で長期的な関係が理想とされてきた。しかしデジタル時代の消費者は、複数のブランドを状況に応じて使い分け、柔軟に更新や切り替えを行っている。ブランドは「長く付き合う対象」から「必要なときにアクセスする対象」へと変化しつつあるのだ。
ただし、すべての関係が希薄化しているわけではない。むしろその中で、「唯一無二の存在」や「運命的な出会い」を求める消費者心理も存在する。特別なブランドに対しては、消費者は積極的に情報を収集・共有し、自己とブランドを結びつけることで愛着を一層深めている。とはいえデジタル化は、1対1の関係に代わり、一夫多妻的な関係スタイルを広げてもいる。
従来のブランド・リレーションシップ研究は、「ブランド・アタッチメント」「ブランド・コミットメント」「ブランド・ラブ」「自己とブランドの結びつき」など、1対1の、強く長期的で情緒的な関係に焦点を当ててきた。そして、その基本的な前提は、「強ければ強いほど良い」というものである[図表2]。強い関係は、ブランド支持やロイヤルティ、再購買といった望ましい成果に結びつくため、企業にとって大きな関心事であったのは当然である。
しかし、強固なブランド・リレーションシップを築けるブランドはごく一部に限られる。さらに近年では、強すぎる関係が企業にとって逆効果となる場合があることも指摘されている。強いブランド・リレーションシップは必ずしも万能ではないのである。
本研究では、デジタル時代のブランド・マネジメントにおいては、強固なリレーションシップの構築だけでなく、弱いつながりの形成と維持も同様に重要であることを指摘する。ブランドと消費者の関係性においては、強固な関係だけでなく、弱いながらもポジティブな関係が重要である。こうした多様な関係のあり方は、近年拡大するシェアリング・エコノミーにおいて特に顕著だ。本稿では、その具体例としてシェアリングサービス「Laxus(ラクサス)」の利用者を対象に行った調査から、消費者がどのようにブランドとの関係を形成しているのかを検討する。
シェアリングサービス利用者におけるブランド・リレーションシップ
本研究では、ラグジュアリーブランドのバッグをレンタルできるサブスクリプション型シェアリングサービスLaxusの利用者を対象に調査を行った(5)。Laxusはラクサス・テクノロジーズ株式会社が運営し、エルメス、シャネル、ルイ・ヴィトン、グッチ、セリーヌ、プラダ、フェンディ、ディオール、ロエベ、ボッテガ・ヴェネタなど60のブランドを取り扱っている。2015年2月に事業を開始し、2025年時点でアプリは220万ダウンロードを突破している。2024年3月期の売上高は21億9,300万円と、前期比約10.1%の増収となった。
ラグジュアリーブランドのシェアリングサービスを研究題材とした理由は、従来ラグジュアリーが「所有」を前提としたカテゴリーであったためである。先行研究でも、ラグジュアリー消費における所有の重要性が強調されてきた。しかし近年、購入ではなく「アクセス」に基づく消費モデルが台頭し、ラグジュアリー領域にも広がりを見せている。Laxus利用者はまさにその代表例である。
本調査では、20代のマイ、30代のイクコ、40代のフミ、50代のアイコ(全員仮名)という、異なるライフステージの女性4名[図表3]にインタビューを行った。全員に共通してファッションへの関心が高く、ラグジュアリーを「装いを格上げする存在」「視覚的・感覚的な洗練をもたらすもの」と認識していた。また、バブル期を経験したアイコを除き、ラグジュアリーは憧れの対象であり、購入には経済的・心理的負担を伴うため、真剣な検討が必要とされていた。こうした背景から、彼女たちはシェアリングサービスを通じてラグジュアリーを楽しみ、サブスクリプションに否定的な印象はほとんど示さなかった。
ラグジュアリーに特別な思いを抱きながらも、個別ブランドへのこだわりは必ずしも強くない傾向も確認された。特に若い世代は、多様なブランドを試しながら自らの好みを探る段階にあり、特定ブランドへの強い愛着はまだ形成途上にある。実際、全員が2つのバッグを同時に借りられる「ダブルプラン」を契約し、複数ブランドを並行して楽しんでいた。交換回数に制限がないことから、彼女たちは気軽にブランドを入れ替え、さまざまなブランドを試していた。マイやイクコのような若年層では「合わなければ次へ」といったスイッチング行動が顕著であり、一方でバブル期を経験したアイコは「ブランドも自分も変化する」という理解を持ち、特定ブランドに過度に執着しない姿勢が見られた。その結果、数多くのブランド・リレーションシップが形成されていたが、その中には希薄なものもあり、過去に借りたブランドを忘れているケースさえ観察された。
一方で、弱いつながりが強いブランド・リレーションシップへと発展する可能性も確認された。イクコにとってLaxusは「未体験ブランドを試す場」として位置付けられていたが、自身にとって明確な軸となるブランドについては、レンタルを介さず直接購入していた。すなわち、シェアリングを通じて多数の弱いつながりを形成しながら、その中から特に魅力を感じたブランドについては、より強固な関係性へと発展させていたのである。
注目すべきは、強いブランド・リレーションシップが必ずしも「購入」に直結するわけではない点である。Laxusは返却期限を設けていないため、気に入ったアイテムについては、長期間にわたり利用し続けることができる。実際、利用者の中には、長く使いたいと感じたバッグを返却せず、継続的にレンタルしているケースも見られた。
要するに、消費者は依然として「強い結びつきを感じるブランドは手元に置いておきたい」という欲求を抱いているが、その手段は必ずしも購入に限定されない。レンタルか購入かを問わず、常に身近に置いておけること自体が重要視されている。レンタルに対する心理的ハードルが低下する中、強いブランド・リレーションシップがもたらす行動は、デジタル時代において新たな様相を呈しつつある。
弱いポジティブなブランド・リレーションシップのベネフィット
先行研究に基づき、本研究では、ブランドと消費者が関係性を築く上で、ブランドに関する情報や知識が重要な役割を果たすと考える(6)。同一カテゴリー(例えばラグジュアリー)において、多数のブランドと弱いつながりを持つことにより、消費者はカテゴリー全般や個々のブランドに関する情報を繰り返し獲得する。その一部は重複する情報であるが、知識の蓄積はブランド・イメージの形成を促進し、それが強いブランド・リレーションシップの構築につながり、最終的には購買意向へと結びつく[図表4]。
以下では、Laxusユーザーの語りを手がかりに、これらの命題を検討する(7)。
命題1.多数のブランドとの弱いつながりは、カテゴリーやブランドに関する豊かな情報の獲得を促す
Laxusを通じて複数のラグジュアリーブランドのバッグを借り、実際に試すことで、利用者は「試す→比べる→関心が高まる→調べる」という循環を経験し、ラグジュアリーに関する豊かな知識を獲得している。
第1に、バッグを「見る・触れる・持つ」といった身体的体験を通じて、質感や使い心地、デザインなどを五感で理解できる。体感ベースの知識は記憶に残りやすく、単なる情報以上の具体的な知識となる。
第2に、実際に複数のブランドを使用して比較することで、「ラグジュアリーとは何か」「ブランドごとの違いは何か」といった分類軸(スキーマ)が形成される。本や雑誌で得られる情報とは異なり、使用体験を通じた比較だからこそ、「エルメスはクラフトマンシップを重視している」「グッチはトレンド性が高い」といったブランド間の相対的な特徴を具体的に捉える力が養われる。
第3に、多様なブランドに触れることでラグジュアリー全般への関心が高まり、「もっと知りたい」という好奇心が喚起される。その結果、雑誌やSNS、他者の着こなしなどを自主的にチェックするようになり、知識はさらに拡張されていく。
第4に、レンタルという「所有しないが関わる」体験は、購入に比べて心理的・経済的な負担が小さいため、多くのブランドと気軽に接点を持つことができる。イクコは「購入ではないからこそ、興味の薄かったブランドにも触れることができ、審美眼を磨ける」と語っており、レンタルによって新しい学びや発見の機会が得られていることがわかる。
命題2.豊かなブランド情報は、強いポジティブなブランド・リレーションシップの構築につながる
ブランド情報の豊かさ(量と質の双方)は、消費者の認知的理解を広げると同時に、情緒的な共感や愛着を育み、消費者とブランドの関係を一時的な接触から持続的な絆へと発展させる要素となる。
第1に、ブランドの歴史や価値観、製品ストーリー、職人技、デザイナーの思想など、豊かな情報に触れることによって、消費者は「このブランドをよく知っている」という認知的親近感、さらには情緒的な愛着を抱くようになる。こうした情報接触は単なる製品理解にとどまらず、ブランドに対する尊敬や共感へと発展していく。つまり、豊かな情報が感情を媒介することによって、ブランドとのつながりは一層深まっていく。
第2に、Laxusのようなシェアリングサービスでは、利用者が一定期間ごとにバッグを返却し、新しいブランドやアイテムを選ぶ行為を繰り返す。このプロセスを通じて、ブランドとの接触が継続的に生まれ、場合によっては複数ブランドに広がっていく。利用者はその過程で豊かなブランド情報に触れ続けることになり、こうした繰り返しの接点によって好意や親近感が徐々に蓄積され、強いリレーションシップの基盤が形成される。
命題3.強いポジティブなブランド・リレーションシップは、将来の購買意向を喚起する
強いポジティブなブランド・リレーションシップが購買意向を高めることは、これまでのブランド研究において繰り返し実証されてきた。したがって、この命題自体は新しいものではない。しかし、ここで強調すべきは、この関係性がシェアリングサービスの利用者にも当てはまるという点である。
Laxusの利用者は、必ずしも購入を否定しているわけではない。ラグジュアリーブランドのバッグは高額であり、購入には強い思い入れやコミットメントが求められる。弱いリレーションシップの段階ではレンタルで十分とされるが、購買意向を喚起するのは、強いブランド・リレーションシップが形成されたブランドに限られるといえよう。
もっとも注記すべきは、Laxus利用者が購入を拒絶しているわけではないものの、実際には気に入ったバッグを長期間レンタルし続け、購入にはほとんど至っていないという点である。利用者は、手元に置けるという意味では、所有であろうとレンタルであろうと大きな違いを感じていない。むしろ「いつかは飽きるかもしれない」「ラグジュアリーバッグであっても消耗品であり、時間とともに劣化する」と考え、結果的に購入よりもレンタルを選択する傾向が強いようだ。さらに、デジタル時代においては数多くのブランドに触れる機会が増え、「また新しいブランドに出会えるかもしれない」という期待が、現在のお気に入りに執着することをためらわせている。
ゆるやかで持続的なブランド・リレーションシップ構築のためのブランド・コミュニケーション
これまで論じてきたように、デジタル時代の消費者は、多数のブランドと同時に関係を築く傾向を強めており、その強度や質はブランドごとに大きく異なる。そして、たとえ弱いブランド・リレーションシップであっても、ポジティブである限り、確かな価値をもたらす。関心を持ち続けてもらえるなら、やがて強いつながりへと発展する可能性があるからだ。
デジタル時代の消費者は、はじめから特定のブランドと強い絆や高いコミットメントを持ちたいわけではない。むしろ複数の接点を重ねるなかで、自然に知識を深め、徐々に愛着や信頼が芽生え、やがて強い絆へと発展していくプロセスを望んでいる。
したがって企業に求められるのは、こうした自然なカスタマージャーニーを尊重し、顧客の歩みに寄り添う動線を設計することである。以下では、そのための要点を3つ提示したい(もちろん、これに限られるものではない)[図表5]。
ポイント1:気軽にアクセスできるブランド・タッチポイントを設置
消費者がプレッシャーを感じず、気軽に立ち寄れ、さらに繰り返し訪問したくなるようなブランド・タッチポイントを数多く用意することが重要である。具体例として次の3点を挙げたい。
第1に、コンテンツを充実させることである。たとえば、株式会社クラシコムが運営する「北欧、暮らしの道具店」では、アパレルや生活雑貨の販売にとどまらず、オリジナルの読み物や動画、音楽プレイリストなどを積極的に発信している。記事は月80本という高い頻度で更新されており、読者を引き込み、ブランドへの親近感を育むと同時に、購買意欲が自然に芽生える流れをつくり出している(8)。
第2に、無料でアクセスできるデジタル接点を整えることである。たとえば、ナイキ(Nike,Inc.)は、Nike Run Club(NRC)やNike Training Club(NTC)といったアプリを通じて、専門家によるアドバイスやトレーニングプラン、コミュニティ活動を無料で提供している。ナイキの商品を買わなくても、ナイキの文化や世界観に気軽に触れられる入り口となっており、日常的・習慣的な接触を通じて、親しみが自然に深まる仕組みが築かれている。
第3に、消費者がトライアルを気軽に試せるようにすることである。たとえば、サブスクリプションサービスでは無料体験が一般的だが、解約のしづらさが不満につながることも少なくない。その点、Netflix,Inc.(以下、Netflix)は、メンバーシップ管理ページからワンクリックで解約できる仕組みを整えており、そのわかりやすさが業界でも高く評価されている。「いつでもキャンセルでき、また見たくなればすぐ戻れる」という安心感が、かえってブランドへの好感度を高める要因となっている。
これらの事例に共通するのは、消費者が「買わなければならない」というプレッシャーを感じず、気軽に訪問できる点にある。
ポイント2:ブランドから追いかけない姿勢
ゆるやかで長期的な関係を築くためには、ブランド側があえて「追いかけない」姿勢を示すことも重要である。過剰なプッシュ型接触を避け、消費者が自ら関わりに来る余地を残すことで、自律性を尊重するブランド姿勢を体現できる。具体的には、広告で過度に購買を迫らないこと、製品ユーザーへのしつこいターゲティング広告を控えること、あるいはサブスクリプション解約時に無理に引き止めないことなどが挙げられる。こうしたアプローチは心理的負担を軽減し、結果としてブランドへの好感を高める。
たとえば、ラグジュアリーブランドは、消費者を追いかけないことで、洗練された高級ブランドのイメージを維持している。「消費者のほうから探しに来る」というスタンスは、ブランドの自信を示している。
ポイント3:競合と並列して展開し、選択の自由を与える
消費者にとっての選ぶ自由を尊重することも、ゆるやかな関係を長く続けるために不可欠である。複数ブランドを比較・検討できる環境を提供することで、消費者は自分に合うブランドを主体的に選び、ミスフィットを回避できる。その結果、満足度の向上にもつながる。
その典型例が「ブランド集約型プラットフォーム」である。Amazon、楽天市場、Yahoo!ショッピングといったオンライン・ショッピングモール、ファッションに特化したZOZOTOWN、ホテル予約サイトのBooking.comなどがこれに該当する。本研究で取り上げたLaxusもこのカテゴリーに含まれる。
一方、単独ブランドが主導する「ブランド・フラッグシップ型プラットフォーム」では、独自の世界観や価値観を強く打ち出すことができる。著者らが注目するのは、この両者の特性を組み合わせたハイブリッド型戦略である(9)。
例えば、韓国のHYBE社(旧Big Hit Entertainment)のプラットフォームビジネスをリードするWeverse Companyが運営する、MAU1,200万人を超えるGlobal Superfan Platform「Weverse」は、分散していたアーティスト情報を一元化し、ワンストップで推し活ができる環境を提供することで、ファンの活動を容易にし、高い熱量を持つ「スーパーファン」へと導く役割を果たしている。しかもそれは、従来のブランド・フラッグシップ型プラットフォームのように、特定アーティストに限定されたものではない。HYBEが擁する多様なアーティストに加え、BLACKPINK、YOASOBI、アリアナ・グランデといった幅広いアーティストが同じプラットフォーム上に展開されている。Weverseはまさに、冒頭で取り上げた「マルチスタン現象」に対応するプラットフォームであるといえよう。
これまで、学者も実務家も、ブランドと消費者のあいだに成立する1対1の、強固で長期的かつ情緒的な関係に注目してきた。しかし、そのような関係はマーケターにとっての理想像にすぎず、デジタル時代においてはもはや幻想に近いのかもしれない。今後もデジタル化は一層進展していくと考えられる。そのような状況下では、消費者は多数のブランドと、強弱や質の異なる関係性を同時に築いていくことになるだろう。
企業に求められるのは、消費者が自社ブランドに関心を寄せたり、時に競合ブランドへと関心を移したりする姿を、大らかに受け止める姿勢である。囲い込みを図るのではなく、「どうぞほかも試してみてください。そのうえでよければ、また戻ってきてください」と言える度量を持つことが重要である。
さらに、消費者とゆるやかに関係を保ち続けるための仕組みを整え、完全に接点を失うのではなく、たとえ弱くても継続的につながりを維持することが求められる。その上で、自社ブランドが常に魅力を放ち続けるよう価値創造に努め、消費者に選ばれ続ける存在となることが肝要である。
〈注釈〉
(1)デジタル時代における買い物ならびに消費者の購買モデルの変化については、前号の「デジタル時代のリテール・コミュニケーション」でも取り上げている。興味がある方は、そちらもご参照いただきたい。
(2)https://www.mckinsey.com/capabilities/growth-marketing-and-sales/our-insights/the-great-consumer-shift-ten-charts-that-show-how-usshopping-behavior-is-changing
(3)この現象については、「デジタル時代のファン深化」でも取り上げている。興味がある方は、そちらもご参照いただきたい。
(4)本記事では、ブランド・リレーションシップに関する先行研究の詳細な議論や論文の紹介は割愛している。興味がある方は、吉田秀雄記念事業財団委託研究プロジェクト「デジタル時代におけるブランドの課題に関する探索的研究」の報告書をご参照いただきたい(同財団アドミュージアム東京ライブラリー内でのみ公開)。
(5)本記事では、探索的調査のデータ収集方法やご協力くださったインフォーマントのプロフィールは割愛している。興味がある方は、「デジタル時代におけるブランドの課題に関する探索的研究」の報告書をご参照いただきたい。
(6)本研究では、弱いポジティブなブランド・リレーションシップのベネフィットを検討する上で、「弱い紐帯の強さ」理論(Granovetter,1973)に注目している。詳細に興味がある方は、「デジタル時代におけるブランドの課題に関する探索的研究」の報告書をご参照いただきたい。
(7)本記事では、インフォーマントの具体的な発言は割愛している。興味がある方は、「デジタル時代におけるブランドの課題に関する探索的研究」の報告書をご参照いただきたい。
(8)「北欧、暮らしの道具店」の事例については、前号の「デジタル時代のリテール・コミュニケーション」でも取り上げている。より詳しい内容に興味がある方は、そちらもご参照いただきたい。
(9)ブランド・プラットフォームについては、「デジタル時代のファン深化」において詳しく論じている。興味がある方は、そちらもご参照いただきたい。










